第216話 首輪

「喰ってる……」

「共食いだな。競争に負けたシードンの成りの果てって訳だ」

「でもその競争に勝った奴らの姿が見えな――」


メアが辺りを見回すと、俺達が下ってきた階段は何故かその姿を消した。


この階層の出入りには特殊な仕掛けがあるらしい。

もしかすると、これもシードンの仕業か?


メアが言うには戦った【5】のシードンは水を使った魔法スキルを多用するタイプだったらしい。

と言う事は、ダンジョンの階段に何か細工が出来るような、基本の脳筋タイプじゃなくトリッキーなシードンが居ても不思議はない。


ただそれだけの事が出来る個体なんて……【5】よりも上のシードンがここにいる。


「階段が消えた……」

「元凶はあの中、きっと勝ち組のシードンもあの中にいるんだろ」


俺は目先に映る建物を指差した。


上りの階段を消されたっていう事は下りも同じ様に仕組まれている可能性がある。


結局あの建物内に突っ込む以外俺達に選択肢はない。


「まさかあんな建築物がシードンに作れるなんて」

「それだけ知識に富んだ奴がいる、それに素材を集めたるだけじゃなく加工、生成出来る奴も……でもそれだといくらなんでもシードンっていう種族が万能過ぎる気もするな」

「そうね。そんなのまるで亜人の、私達メロウみた――」


メアは言葉を途切せ、口元に手を当てた。

目は見開き、ハッとした様な表情だ。


「もしかしてここでメロウがシードンに?」

「その可能性は高いな」

「くっ! 急ぎましょう輝明」

「ああ、分かった」


そんな嫌な可能性を頭に入れながら俺達は痩せ細ったシードン達を蹴散らしてその建物を目指したのだった。



「ぶ、も……」

「があっ!」


痩せ細ったシードンがトゲくんの尻尾によって宙を舞う。

そして俺達は建物の正面に辿り着いた。


建物は豪華な装飾等は無いが、とにかく大きい。

相当な数のシードンがこの中で暮らしているのだろう。


であれば食料はどうやって――


「行くわよトゲくん、輝明」

「これだけの建物、しかも門番の様な奴もいない。入り口から何か仕掛けがあるかもしれない。注意していこう」

「ええ。それじゃ開けるわ」


念の為メアに注意を呼び掛けると、メアはそれに返事をした後、ゆっくりと扉を開けた。



バンッ!



すると、何かが破裂する音ともに白い光が目の前を覆い、視界を奪われる。

やはり、そう簡単に侵入はさせないように罠が張ってあったか。


「だけど直接ダメージがあるわけじゃな――」

「ぶもおおおおおおおおおおおおおっ!!」


視界は奪われたものの取りあえずダメージがない事に安堵していると、けたたましい叫び声と共に俺の身体に何匹かのシードンが抱きついてきた。


そしてシードン達は荒く息をしながら舌や牙を押し当てる。


「くっ!」


俺はそれらからダメージを受けまいと『豪腕』を発動させてシードン達を振り払った。


意外にも簡単に剥がれてくれたのはありがたいが、何故こいつらはこの視界でまともに動けたのか。


俺はその疑問を解き明かす様に段々と慣れたその目を開ける。


すると、そこには地べたに這う、目を潰され、首輪をかけられたシードン達の姿があったのだった。


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