第207話 メアサイド:苛苛
「く、そっ! なんだってんだよ次から次へと……どいつもこいつも鬱陶しいっ!!」
「トゲくんっ!!」
「がぁっ!!」
倒れていた【5】のシードン苛立った様子を見せながら、抱いていたシードンを今度は担ぎ上げた。
担がれたシードンは大きく相当な重さである事は間違いない。
しかし【5】のシードンは片手で、しかも軽いボールを投げるような速度でシードンを投げ飛ばしてきた。
私はトゲくんの尻尾に包まれたまま、慌てて氷の息でそれを押し返す様に命令したけど、さっき凄まじい勢いで氷の息を出したばかりでトゲくんの顔はしんどそう。
「雑魚シードンに貧弱なメロウとそれに使役されるシーサーペント……。ちょっとばかし俺の事を舐めすぎじゃないか?」
なんとか投げ飛ばされたシードンの勢いを殺したと思った瞬間、頭上でボコボコと音が鳴った。
「なんのお――」
「ブルーストライク」
その音の正体を知る為に振り返ると、そこには私やトゲくんの体以上に大きな水の球が浮かんでいた。
突然現れたその水の球に驚き、言葉を途切れさせてしまうのと同時に【5】シードンの声が耳に届く。
まずい。
この場所、空中じゃ避けれない。
「がぁっ!」
「トゲく――」
水の球が勢いよく落下し始め、私はとにかくダメージを軽減する為に腕でガードをした。
すると、その上からトゲくんが覆いかぶさるように、身体をうねらせる。
ドッ――
危ないから退くように命令するよりも前に水の球は私達の上に落ちた。
水とは思えない程の重さ。
トゲくんが守ってくれているのに、その衝撃は体の芯まで震わせる。
まるでものすごく硬い何かで全身を殴られたみたい。
「弱い癖に俺の周りをちょろちょろしやがって。だが、お前らは運がいい。いつもなら一思いに殺すところだが、俺は今イライラの最高潮。ストレス解消に半殺しにして、しばらくは奴隷として痛ぶってやるよ」
そのまま地面に叩きつけられた私とトゲくんに何か言いながら【5】シードンはゆっくりと歩いて近づいてきた。
「おいっ!! こっちは俺が受け持つ。その間にお前らは前線に突っ込んで調子に乗ってる奴らを出来るだけ殺してこい。そんである程度経験値と肉を確保したら撤退だ! いいか雑魚を盾にしてでもお前らだけは戻ってこい」
【5】のシードンはでかい声で【6】のシードンに命令すると、遂に私達の元に辿り着き、そして私の顔をそっとそのごつごつした手で触れた。
「お前なんかが触っていい身体じゃないんだけど」
「ほう、威勢のいいメロウだ。いいねえ、こういう生意気な奴とかプライドの高い奴が殺される瞬間のあの顔……思い出すだけでにやけが止まらん」
「お前っ……。私のナカマに何をしたぁぁぁああああああああっ!!」
【5】のシードンの顔が何倍、何十倍、いやそれ以上に醜悪に見えた。
こいつは、シードンっていう種族だけは必ず根絶やしにする。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
「……殺す」
「はははっ! 動く事も出来ない癖に何を言ってんだかなぁ」
水の球によるダメージの所為でまともに身体が動かない。
くやしいくやしいくや――
「がぁ」
何も出来ない自分が情けなく、ただただ奥歯を噛みしめていると、トゲくんがふっと氷の息を吐いた。
すると水の球によって濡れていた地面が急速に凍り、【5】のシードンの足をも凍らせた。
「ふん。こんなもの」
【5】のシードンはこれを苦ともせず、自分の足に張り付く氷をバリバリと割る。
「が、ぁ」
「トゲくん……。そうよね、あなたが頑張ってるのに主の私がこんなじゃ駄目よね」
私は両手で地面をなんとか這う。
そして、倒れているトゲくんに重なり合う様に体を預けると私は消えそうな小声で唄を歌うのだった。
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