第204話 命乞い

「まさか1人じゃなかったとは……。水音はしていなかった。最初からこのタイミングを見計らっていたっていうのか?」

「いいや、今まで攻撃に加わっていなかったのは俺が先に着いていたからってだけ、だと思う。ここで思いきって攻撃をしてくれたのは、多分俺の思惑が伝わったから」

「思惑……。それがこの奇襲って訳か。ん? 何でお前に俺の声が……」


やはり【5】のシードンは隠蓑の身を隠す効果のみしか把握していない。

喰らったバフは自動で鑑定されるのではなく、ざっくりとした知識のみが身に付くといった感じだろう。


即死に関してもどうせ確定だとか思っていたんだろうな。

あれだけいきり散らしていたし。


「姿が見えるようになっていたとしても、俺自身の強さが変わる訳じゃない筈。ならこの拳でお前ら全員ぶっ飛ば――」


【5】のシードンの身体が痙攣した時のようにピクッと動く。


恐らくはさっきの正拳突きの構えをとろうとしたのだろうが……【5】のシードンも隠蓑のデメリットであるダメージ後に動けなくなるという効果にどうしても抗う事は出来ない様だ。


いつの間にか毒の効果も消えている様だし、これまで耐性があった場合どうしようかと思ったが……。


「くっ!! なんだこれ、動かないっ!」


これだけ焦っているところを見ると、直ぐに回復される事も無さそうだ。


とはいえ、さっさと殺さないと最悪の場合もあるか。


「アルジャン! ルージュ! 急いでこっちに来てくれ!」


俺は投げ飛ばしたジャマダハルを再び装備する為に2人に声を掛けた。


そして俺はまず【5】のシードンの装備を引き剥がす為に、装備の急所を分身達は立派に生え揃った牙に向かって拳を打ち出す。


「ぶがぁぁぁぁああああああああっ!!」

「ようやくモンスターらしくなったな」

「た、頼む。溜め込んだ食料も、そうだ!この下にある巣にいるメロウ達、それを全てお前にくれてやる!なんだったらこの俺がお前の配下に――」

「下衆なだけならともかく自身のプライドも捨てたか。みっともないな、お前」


反吐が出るような命乞いをする【5】のシードンに侮蔑の言葉を吐きかける。


誰がこんな奴を配下するか。


「「来たっ!!」」

「やっぱり止めにはお前達だな。頼んだ」


走って来てくれた2人は直ぐにジャマダハルへと変化した。

俺はすかさずそんな2人、ジャマダハルを装備すると、【5】のシードンの急所の上で敢えて刃を止めた。


「言い残す事はあるか?」

「ここまで、やっとここまで来たってのに……。【1】さえも倒す、俺はこのダンジョンの長に、長に……ぶもおおおおおおおお――」


言葉から鳴き声に変わった瞬間、俺は突き付けたジャマダハルをゆっくりと突き刺した。


鳴き声は止み、蓄えられていたシェルプリーストの真珠が口から溢れ零れた。


強かったが、モンスターとして格が上がった事による慢心が序列を上げられない原因なのかもな。


『レベルが上がりました』

「久々のレベルアップか。あっちの方は大丈夫かな?」


俺はレベルアップのアナウンスを聞くと、メア達のいるシードンの集団に目を向けたのだった。

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