第203話 喰ったな

「速っ……」

「ふふ、どうだ自分が即死効果の恐怖に晒される気分は」


 【5】のシードンによるジャブが顔の真横を凄まじい速さで通りすぎていく。

 ひゅん、と風を切る音で耳が少しおかしくなりそうだ。


 だが広範囲高威力のあの正拳突きは溜めが必要なようで使ってこない。


「避けてばかりではつまらん、ぞっ!」

「くっ!」


 【5】のシードンの攻撃は速いだけでなく、俺の動く先が見えているかのよう。


 俺が敏捷性の高い職業を選んでいなかったら、これを避けるのは不可能だったかもしれない。

 

 思えば姿を隠している時もこいつは俺のいる場所を特定する事が出来た。

 野生の勘にしてはあまりにも正確に。

 これもスキルの力か――


「不思議そうな顔をしているな、人間」


 避けながら思考を巡らせていると【5】のシードンが語りかけてきた。


「お前のそのスキル、いや誰の何のバフを喰ったんだ?」

「これは聴力バフ。確か【10】のシードンが持ってたんだっけな」

「聴力……。それだけでどうやって俺の動きを……。まさか関節、いや足音か」

「まぁほぼ正解だが……。人間、お前の足元はどうなっているかな?」


 俺はちらりと地面を見た。だがそれは何の変哲もない地面。

 強いて言うならあの時の正拳突きによる水の粒が若干残っているような……。


「まさかこれの音で動きを読んだのか?」

「普通のモンスターなら普通の足音だけで追えるがな。いかんせんお前のそれは小さすぎて分からなかった。だからこの破裂するような水音を利用した。それで音の違いで踏み込む加減や向きが分かるのさ。役に立たないバフだと思っていたが意外なところで活躍してくれたものだ」


 【5】のシードン曰く俺が水の粒を踏む音で動きを読んでいるらしい。

 こんなものどうしたって対処出来る筈がない。


「それにお前の速さにもだんだん慣れてきたな」

「つっ!」

 

 とうとう【5】のシードンの拳が右頬をかすった。

 まるで刃物で攻撃されたかのように、皮膚は裂け、つうーっと血が垂れる。


 幸運にも即死は入らなかったがこのままじゃ時間の問題……。


「くそっ!」

「自棄になったか?ふふ、では今度はその毒と腕のバフを喰ってやろう」


 俺は少し後ろに下がりジャマダハルを投げて、【5】シードンに僅かな隙を作らせると素手を突き出した。

 しかし、手は【5】のシードンの口に吸い込まれる様に導かれる。


「やめっ!」

「貰ったぞ、お前のバフ」

 

 【5】のシードンは俺の腕をパクリと口で挟むと軽く吸い始めた。ダメージはないが何とも気持ち悪い。


「くっ!『隠蓑』」

「無駄な足掻きだ」


俺はその状態のまま『隠蓑』を発動させた。

すると、【5】のシードンの姿は見えなくなり、気配も感じられなくなった。


「ふふ、賭けだったが上手くいったな」


 消えたシードンに向け俺は笑って見せた。

 それに違和感を感じたのか、【5】のシードンは俺の腕から口を放す。


 だが……。


「なっ!?」

「流石だよ、分身君」


 俺の分身達の攻撃が【5】シードンの顔と腹を掠めたのだった。

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