第190話 息

「休む暇もないな。――『即死の影』」


俺は即死の影を発動させて直ぐに即死効果を持つ羽を打ち出した。

恐らくあの【10】や【7】という数字は強さ、群れでの序列を意味している。


ということはこいつは今までのシードンよりも遥かに強い可能性がある。


様子見をしている余裕はないと思った方がいい。


「続くよトゲくん!」

「がぁっ!」


俺の攻撃を見たメアは急いでトゲくんに跨がり、氷の息を吐かせると階段付近の地面を凍らせる。


これは俺の攻撃が不発だとしても相手の動きを封じる為の挙動だろう。


短い時間ではあるものの、ここまで共闘してきた事で連携は出来つつある。


「――すぅ……」

「なっ!?」


そんな中即死の影によって放たれた羽がシードンの急所を捉えようとすると、シードンは避けるでもなく周りの空気ごとそれを吸い込んでしまった。


通常よりも大きな身体の【7】のシードンの腹はこれでもかと膨らみ、今度はそのパンパンに膨れた腹から勢いよく息が吐き出された。


巻き起こる突風に俺だけでなくメアを乗せたトゲくんすらも後方に押される。


即死の影や羽の姿が見えないのは一度シードンに飲まれた事でその効果が消されてしまったからなのだろうか?


とにかく相手が動けない状況であるのは変わらない。

ここは瞬脚でこの息から逃げて、間合いを詰めてから殴り合いでもしてやろうか。


「『瞬きゃ――』」


強烈な勢いの息から逃れる為に瞬脚を発動させようとすると息はより勢いを増し、俺は咄嗟に膝を地面についてしまった。


「――マジかよ」


何故急に息が強くなったのか、それは非常に簡単な理由であり、だが俺にとっては一番の盲点でもあった。


俺は何でシードンが氷の上で動きが鈍くなると思ってしまっていたんだ。


「輝明っ!」

「くっ!」


器用に氷の上を腹で滑りながら移動するシードンはいつの間にか俺の目の前まで迫っていた。


しかも息はまだ吐き続けている。


録に身動きがとれないのは俺達の方だったって訳だ。


「なら迎え撃つ。『剛腕』」


俺は両腕を強化して迫るシードンに向かってジャマハダルを突き出した。

これでも勢いは削られているが突きとしては何とか成立している。


それに対抗するようにシードンは肘を突き出しながら突進をする。


互いの攻撃が交わる時、吐き出される息はようやく途絶え――



キィンっ。



俺が突き出した右のジャマハダルは音を立てて宙を舞い、シードンの肘は俺の腹に直撃した。


「ぐあっ!」


勢いを殺していたとはいえその威力は俺に十分なダメージを与えてくれる。


口からは唾液が飛び、地面に這いつくばりたくなる。


だが、ここで粘らなければ追撃されるのは必至。


「くっ、おおおおおおおおおっ!」


無理矢理声を張り上げて、俺はシードンの顔面に向かって左のジャマハダルを突き出す。


するとシードンはそれをかわそうと顔を剃らすが、それでもその長い牙だけは俺の攻撃の範囲内。



パキッ。



「ぶおおおおおおっ!」

「このダメージで牙1本か……」


俺は牙を折られ喚くシードンを見ながらそっと呟くとその手で腹を擦るのだった。

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