第188話 【10】

「凄い……。まさか一撃でなんて……」

「消える前にこれ食べさせてやってくれ。俺の言う事は聞かないから」

「そ、そうね。トゲくんあれも食べて良いわ」


メアからGOサインが出るとトゲくんは慌ててシードンに食い付いた。


だが、その身が固すぎて何とも食べ辛そうだ。


「この感じだと今のレベルじゃ対シードン戦は厳しいか……」

「そうね。残念だけど私達はサポートに回るわ。シードンがあそこまで硬いなんて……もう少し戦えると思っていたんだけど」

「俺もスキルを使わないとろくにダメージが出せなかったからな……。もっと自分のレベルも上げないと、か」


ここ最近は自分のレベルにある程度満足していたが、この期に俺自身もレベル上げしてしまうのは良いかもしれない。


「それにしてもここまでシードンがいるなんて思わなかったわ」

「ああ。確かセレネ様がシードンの討伐に何人か向かわせてるって話だったけど……ちょっと嫌な予感がするな」


討伐の調子が良ければここまでシードンが現れる可能性は低い。

これは最悪の場合を考えた方がいいかもしれないな。


「ええ。急いで下の階層に向かいましょう。トゲくん、悪いけど早めにお願い出来る?」

「がぁっ!」


急かされながらも必死にシードンの死体に齧りつくトゲくん。


そういえばセレネ様のところで出されたシードンの肉はここまで硬そうじゃなかった。


もしかするとシードン達のレベルが総じて高くなっている?

それかこの1匹だけが特別なのか?


俺はそんな疑問を抱きながらトゲくんの食事の様子を見た。


「――あれは」


するとシードンの首筋辺りに小さく【10】という数字が刻まれている事に気付いた。


知能が低い筈のシードンに刻まれた数字。


それは知能が高い上位の個体の存在を仄めかすものなのではないだろうか?。


だったら……


「ちょっとごめんな」


俺はシードンの死体に映る【点】をジャマハダルで突いた。


案の定武器などと同様にシードンの肉はバラバラに弾け辺りに散らばった。

見た目は汚いがこの方が間違いなく食べやすいだろう。


もし俺の考えが正しければ、数字を付けた上位の個体はこの瞬間にも力を蓄えているだろう。


手がつけられなくなる前に少しでも先を急がないと。


「がぁっ!」

「……それにしても凄いスキルね。そんな事も出きるなんて」


バラバラになった肉をトゲくんがもちゃもちゃと食べ始めると、メアが顎に手を当てながら呟いた。


「《透視》は生き物や物の急所が見えて、確定で改心の一撃が出せるっていうスキル。だからシードン相手には相性がいいんだ」

「なるほどね。でも改心が出ても一発じゃ……って透視って見えてるの!? 全部!?」


メアは透視という言葉を聞いて両手で胸を抑えると顔を赤らめた。

なんか一番最初の椿紅姉さんの反応を思い出すな。


「そういうやましい事が出来るスキルじゃな――」

「な、何?もしかして図星だったから動揺したとか?」

「違う。そんな事よりこれ」

「ああ、レベルアップしたのね。シードンの肉はよっぽど経験値が多いみたい」


シードンをあっという間に食べきったトゲくんの身体は一回りくらい大きくなっていた。


「がぁっ!」

「さ、トゲくんもやる気満々みたいだし、下に行きましょう。これならトゲくんもシードンとそこそこ戦える筈よ」


そういうとメアは更に大きくなったトゲくんの背に乗って移動を始めるのだった。

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