第182話 心開く唄

「メチルダさん!?」


あまりに唐突な出来事にメアは驚き、慌てふためいているが、氷の息を吐かれてもメチルダさんの顔には霜が降りているだけで完全に凍ったりはしていない。


しかもメチルダさんは何もなかったかのようにシーサーペントの頭を撫で微笑んで見せた。


「大丈夫です。この子は他の子よりもかまって欲しいだけで……ちょっとおてんばなんですよ」


メチルダさん頭を撫で続けているとシーサーペントは顔をメチルダさんの頬に擦り付ける。


他の個体よりも大きく、角の数も多い。

明らかに厳つい見た目ではあるものの、他より愛嬌がある。


「この子が今日から私のパートナー……」


メアはゆっくりとシーサーペントに手を伸ばし、その頭に触れようとする。


しかし、シーサーペントはメチルダさんの時とは違い、身体をビクッと震わせ、低く唸った。


メアはその反応を見てさっと手を引く。


「元々一匹狼で、仲間と行動してなかった子なんです。スキルのお陰で反抗する事はないんですが、こんな様子なので他の子を優先して連れ出す人ばかりで……レベルは高いんですけど」


メチルダさんは困ったように説明する。


もしかしたらこのシーサーペントは群れで馴染めず、仲間達の間で虐めを受けていたのかもしれないな。


「……。大丈夫。大丈夫だよ」

「が、あ……」


メアが再びシーサーペントに触れようとすると、今度はぎゅっと目を瞑ってしまった。


するとメアは反対の手を胸に当てて語りかけるように優しく歌い出した。


それは俺達を眠らせようとした時とは違う、まるで子守唄のよう。


「がぁ」


シーサーペントはその歌につられるように身体をゆっくり揺らすと、そおっと目を開けた。


メアの手が触れ、顎の辺りを撫でられた時にはどこか嬉しそうな表情さえ見える。


「……。凄い、です。私ですらこの子が警戒を解いてくれるまで何日も掛かったんですけど……。メア様の歌声は少し特別なのかもしれませんね」


メアに心を許した様子のシーサーペントを見てメチルダさんは微笑みを浮かべた。

一時はどうなることかと思ったが、リヴァイアサンへ進化させる作戦は無事開始出来そうだ。


「「なでなでっ!」」

「……触らせてあげてもいい?」

「がぁ」


アルジャンとルージュが触れる事をメアがシーサーペントから許可を貰うと、早速アルジャンとルージュはシーサーペントをペタペタと触った。


なんだか動物園のふれあいコーナーにでもいる気分だ。


「子供達にも触らせる事を許可するなんて、よっぽどメア様の事を気に入ったのですね」

「っていう事なんですね。じゃあ俺も……」

「輝明もいい?」


2人に続いて俺もシーサーペントに触れようとするとメアが許可をとろうとしてくれたのだが……


「がぁ……」


シーサーペントは俺とメアの顔を交互に見ると、強烈な勢いで氷の息を自分の顔に吐きかけ、氷で覆ってしまった。


これってどういう事?


「メア様と仲の良い男性に嫉妬でもしたのでしょう。あまり気になさらず……。そ、それではこの子を出してあげましょうか」


メチルダさんは触れる事を許可して貰えなかった俺をフォローすると、素早く話題を変えるのだった。

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