第180話 厩舎

「……介抱させてしまって済まなかった。それで、身体はもういいのか?」

「はい。お蔭さまで。それで、その……」

「それについては輝明の頑張り次第だ。……。それにしても男というのは……」

「だからそれは――」

「いい。分かっている。あの時輝明はあの状況で堪えてくれた。誠実な男で……他の人間とは違うという事は伝わった」

「それは有難いんですけど……」

「それでは早速シーサーペントを与えるとしよう。メチルダ! メア、輝明、そっちの子供達を厩舎へ案内してやってくれ」

「はい。かしこまりました」


 『セイレーンの汗』は数秒経つと俺の身体に染み入るように消えてしまった。


 すると体のだるさ、痛みもすっかり消えた。


 しかし、それと引き換えにセレネ様はしばらく動かなくなってしまい。

 俺は仕方なく1時間ほど膝を貸していたのだ。


 セレネ様がたまに喉が渇いたとか、熱いとか言いい出し、水を飲ませてあげたり、たまたまアイテム欄に入れていた冷却シートを貼ってあげたり、介抱しながらだったからかそれほど苦ではなかった。


 ただ、この1時間を無駄にするのも、と思った俺はセレネ様が落ち着いた頃にもう1度『セイレーンの汗』を手に入れられないか一度セレネ様に無許可で鱗に触れてしまっていた。


 それの所為で、セレネ様は俺が自分に浴場したのだと勘違いしてしまっている。

 一応弁解はしたのだけど、セレネ様はそれをただの言い訳だと思ってしまっているようでやれやれといった表情を見せるようになってしまった。


 それでも、この人が『セイレーン』であり、妖精の花を手に入れる為のカギとなる存在だという事が分かった以上、もう1度『セイレーンの汗』を頂戴する為に俺はある約束をした。


 それはある『シードン』の討伐。

 『シードン』が大量に繁殖しているのは核となっている存在がいるから。

 それを迅速に討伐をする事を条件として『セイレーンの汗』を報酬にしてもらったというわけだ。


 まぁ本人は俺が『セイレーンの汗』を貰う過程を欲していると思っているのだけど。




「――それにしてもセイレーンがセレネ様だったとは……。汗の効果も凄かったな」

「……2人で何を約束したのかしらないけど、もっとシャキッとしたらどうかしら?」


 シーサーペントを飼う厩舎へ向かいながら俺が呟くと、メアが眉間に皺を寄せながら俺の顔を覗き込んできた。


 俺そんなにだらしない顔をしていたつもりは無いんだけど……。


「ここが厩舎となります。下の階程レベルの低い個体になり、上の階程レベルの高い個体という分け方をしておりまして、今回は最上階に居るシーサーペントをメア様に授ける様にと」


 セレネ様が呼びつけたメチルダさんは厩舎を前に淡々と説明をしてくれた。


 厩舎は10階建ての高い建物となっていて、この辺一帯では一番高く目立つ。

 見た目は完全に高層ビルだ。


 ちなみにメロウの集落はここ、地上がメインになっていていくつもの建物や店のようなものが立ち並んでいた。


 海の中の方が安全では? とメアに質問したが水中で暮らす方が水圧の関係で疲労が多くなってしまいやすいらしい。


「「うおーっ!! 早く入ろーっ!!」」

「……それでは早速中へご案内します」


 厩舎を見たアルジャンとルージュに急かされるようにメチルダさん早速厩舎の1階の扉を開ける。


「おおっ……」


 扉の先ではいくつもの馬房、ではなくシーサーペントの部屋とそこから顔を出すシーサーペント達が待ち構えていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る