第174話 命令
「ど、道具って……」
「しっ! いいから任せておきなさい」
あまりにも扱いの酷いメアの発言に小声で口を挟んだが、きっとした目で一蹴されてしまった。
余裕はなさそうに見えるが、何か策があっての事なんだよな?
「このステーションも集落にある建物もその他の技術も人間の記憶の一部から成り立っている。今の暮らしをより快適にする為に私はこの人間を捕虜として迎え入れようと提案させて貰うわ」
メアの言葉で周囲がまたざわめき始めた。
だがそれはさっきまでの殺伐としたものとは丸で違い、仲間同士でメアの発言に対してどう思ったのか、というような確認、話し合いに見える。
「でも人間は危険よメア。人間が私達に何をしたか、あなただって……」
「それは重々承知してるわユーリ。でもさっきも言った通りこの人間は拘束済み。抵抗もしないし、目的さえ済めば記憶を消す、そして提供するっていう約束も――」
「人間が本当に約束を守れるのか? 俺には人間がそんな事の出来る種族だとは思えないんだが」
メアの声を遮って男性のメロウが人間に対して凄まじい偏見を持った意見をいい放った。
普通だったらこんな意見が受け入れられるとは思えないが、ここでは違う。
それを聞いていたメロウ達は一同に頷いて見せたのだ。
当時このダンジョンで人間がメロウ達にした行為がどれだけ酷いものであったのか、それが容易に見てとれる。
「大丈夫よ!! 約束の証と抵抗の意思がない事の証明としてこの人間は自分の武器と他のアイテムを自ら差し出したの」
メアはアイテム欄からジャマハダルと俺の渡した魔法紙を取り出して掲げて見せた。
しかしそれでもメロウ達を納得させる待でには至らず、どの人もこの人も何とも言えない表情を浮かべていた。
アイテムを手に入れる為、ここまでしてくれたメアの為、ここは俺が精一杯の誠意を見せるしかない。
「お願いです。俺はただ助けたい人がいて、その為にあるアイテムを手に入れたいだけなんです」
「ちょっ、勝手に……」
「お願いです。あなた達には危害は加えません。今だけ、今だけ、集落に立ち入れさせてください。アイテムさえ手に入れれば記憶を覗かれても消されても好きにしてくれていいですから」
俺は手を拘束された状態で土下座の体勢をとると、メロウ達に懇願した。
メアはそんな俺に頭を上げろとばかりに肩を叩いたりしてくるが、俺はこの体勢を止めようとは思わなかった。
これくらいで椿紅姉さんを助ける為に必要なものが手に入るのであればお安いご用だ。
「人間のそれは信用ならんな」
「あの時もそうだったわよね」
土下座を見なれているのか、メロウ達には響いていないようだ。
なら……。
「アルジャン、ルージュを掴んでこっちに来てくれ」
「えっ!?」
俺が命令するとアルジャンは人間の姿に戻り、驚いているメアからルージュを奪った。
「何をして……。まさか輝明……」
「アルジャン……俺の両足の腱を切れ」
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