第158話 生尻尾
「A級以上……。そういえば私達レベル上げに気をとられてあんまり昇級の事は考えてませんでしたわね 」
「依頼全然こなしてないですね」
灰人と桜井さんは宿題を残したまま夏休み最後の日を迎えてしまった小学生のような意気消沈具合を見せる。
そもそも俺がもうA級にいるのが異例なだけで2人がC級にいるのは普通なんだけどな……。
「なんだ、あいつの弟子の癖に低級なのね、あなた達」
「「くうっ……」」
声にならない声。
エクスはそんな2人の様子をどこか楽しんでいるみたいだ。
「ま、まぁ俺がさくっとアイテムとってきますから」
「白石君……。でも私達待ってるだけじゃ……。マーク旗の生産はすぐですし……」
「マーク旗ってなんなの?」
「ダンジョンで道標になるアイテムですわ。使ったことありませんの?」
「覚えがないわね。でもダンジョンにそんなもの設置出来るなら――」
「活魔力溜まりへ行きやすくなりますね!」
食い気味に話しに割って入ってきたのは、息を荒げたエニスさんだった。
「あそこは道が複雑だしいつも迷うのよねぇ。リザードマンは定期的にあそこで魔力を充填しないと行けなくて……。それにあの辺りは経験値稼ぎにいいモンスターも多いし、マーク旗を設置してくれるなら私もレベル上げ手伝っちゃうんだけどなぁ。あいつの弟子は私の弟子みたいなもんだし」
チラチラと灰人と桜井さんを見るエクス。
その後ろでは目を輝かせるエニスさん。
「わ、分かりましたわ! どうせ白石君がアイテムをとってくる間は暇ですし……。でも、あんまり深すぎると暑さで」
「それでしたら……よっ!」
桜井さんが言いかけると、エニスさんが自分の尻尾をまさぐり……根本からそれを引っこ抜いてしまった。
痛くないのそれ?
というかなんでとった?
「私達リザードマンの尻尾は環境に合わせた体温に調節する機能があるんです。だから私達はこのダンジョンの中でも暮らせてました。それでこれを一定量食べた人間も短時間ですがその効果が現れるみたいで……」
「そ、その、尻尾肉を私達にた、食べろと仰るんですの?」
「そういうことね。大丈夫、味は保証するから」
エクスはにっこり笑うと舌舐めずりをして見せた。
エニスさんには悪いけど俺ゲテモノは駄目なんだよな。
良かった俺A級で。
「でも別に今食べる必要は……」
「そうですわ!マーク旗を増産してからゆっくりと……」
「折角ですから味見してください!私自信あります!」
エニスさんなんでそんなに食べさせる気満々なんだ?
「あっ因みに生食でいけるわよ」
「生が1番美味しいです!」
灰人と桜井さんににじり寄るエニスさん。
それと悪いけど俺に助けを求めるような視線を送ってもどうしてあげる事も出来ないって。
「じゃ、じゃあ、マーク旗用の素材は置いておくんで……アイテムとってきたらまた連絡します」
「兄さんっ!?」
「白石君っ!?」
「頑張ってねー」
俺は2人を尻目に一色虹一の豪邸を後にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。