第136話 範囲攻撃
「『瞬脚』」
俺は椿紅姉さんを抱きかかえてスライムから距離をとった。
こいつはマジックキャンセラースライム。
小紫によって生み出されたモンスター。
行き場を無くしてここまで付いて来てしまったのだろう。
魔法紙を使えなくさせるし、ここまで付いてくるしで全く迷惑な奴だ。
「くっ! こいつら攻撃が効かない! 探索者ではない人達はここから離れて!」
よく見ればマジックキャンセラースライムはこの1匹だけでなく、次々とダンジョンの入り口から溢れ出てきていた。
入り口は瓦礫で完全に閉じられている様に見えるが、マジックキャンセラースライムは細い細い隙間を通り道にしているのだ。
「きゃああああ!!」
「こ、こっちに来るな!!」
入り口の受付嬢や売却所の人達、アイテムを販売している人達、探索者ではない人達にもマジックキャンセラースライムはにじり寄っていく。
悲鳴が響き渡る中、探索者達はマジックキャンセラースライムに攻撃を仕掛ける。
だが、マジックキャンセラースライムはメタル系。
レベルの低い探索者の通常攻撃は当たり前の様に跳ね返す。
「うわ、ヤバいな。流石に数が多すぎる」
流石の一色虹一もこの状況に焦りを隠せないのか、額に汗をかきながら応戦するもののメタル系スライムのHPは中々減らない。
このままでは他を助けに行く前に、死人が出てもおかしくない。
「俺に範囲攻撃があれば……」
『レベル100に到達されヘルプ機能がご利用頂けるようになっております。ご質問は【範囲攻撃】の取得でお間違いないでしょうか?』
単体攻撃に特化し過ぎている今の自分にもどかしさを感じていると、頭の中にアナウンスが流れた。
ヘルプ機能?
そんなのあるなら低レベル帯から使えるようにしてくれよ。
俺はそう心の中でツッコミを入れると、直ぐにアナウンスに対して返答した。
その内容は勿論【はい】だ。
『アダマンタイトスライム討伐によりレベルアップ分のスキルポイントを取得、またスキルポイントの大量奪取をしております。【即死の影】のスキルレベルを10まで引き上げる事で遠くにいる相手に影を飛ばすことが可能、更にレベル12で連続射出が可能となり、遠距離広範囲への攻撃が可能となります。【即死の影】のレベルを上げますか?』
「じゃあ12まで」
俺はアナウンスに対して2つ返事をすると、1度『贋作』スキルを解除した。
強化したスキルを持った分身を作れるならそれに越したことはないだろ。
『スキルレベルを12まで上げました。直ぐに【即死の影】を発動しますか?』
「はい」
レベル12になった『即死の影』が発動されると、俺の背中には真っ黒な翼が現れた。
痛みは特にない。重みも感じない。感覚としては手や足に近い。
ただ、これが現れたからといってどうやって範囲攻撃を繰り出せるのか。
「取り敢えず……」
俺は試しにさっき俺を襲おうとしてきたマジックキャンセラースライムに意識を集中させて翼をはためかせた。
すると、翼から黒い羽が数枚、礫のようにそれに向かって飛び出していった。
「きゅっ!!」
《透視》によって見えた急所へその数枚のうち1枚が命中し、マジックキャンセラースライムはあっという間に絶命。
急所に当てるにはなかなか慣れが必要ではあるけれど……。
「これ、相当強い……ぞっ!!」
今度は数匹のマジックキャンセラースライム目掛けて羽を飛ばす。
先ほど1度のはためきで飛ばせた数枚は各スライム目掛けて飛んでいく。
流石にそれだけでは心許なく感じた俺は、今度は何度かはためきとにかく数を増やす。
「兄さん、凄い」
「白石さん……。また差が開いてしまいましたわね」
次々に消えていくマジックキャンセラースライムを見て、灰人と桜井さんが呟いた。
確かにこれだけでも十分な性能。
でも、マジックキャンセラースライムの数は思いの外多い。
それに、翼をはためかせるほど強い疲労感が襲う。
「俺1人じゃ限界があるな……。『贋作』」
俺は分身を新たに生み出すと、一気に事態を収拾しにかかるのだった。
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