第95話 憧れ
「ふぅ、やっと次で100階層ですね。デフォルトでボスが複数出現するといってもここまで前の探索隊に追いつけないなんて思いもしませんでしたよ。はぁ、それに白石さんがここまで感情を抑制出来ない人だともね」
「……すみません」
小紫の分体と遭遇してから半日ほど。
俺は100階層の階段を下りながら猩々緋さんのぼやきを聞いていた。
というのも54階層以降の俺は焦燥に駆られて、猩々緋さんの言葉を無視しながら無鉄砲にボスに突っ込み、その度深手を負うという失態を繰り返していた。
その状態を見かねた猩々緋さんは俺に掛けてくれていたバフを敢えて解除して、敢えてゆっくりダンジョンを進む事になった。
最初はそんな猩々緋さんに物申したりもしていたのだが、時間が経つにつれ冷静さを取り戻すと、自分のとってきた軽率な行動に罪悪感を抱くようになっていた。
今ではどんなにぼやかれても素直に謝ることが出来るがもうすぐ30歳の男がこんなに未熟だなんて、恥ずかしい。
「……。そういえばここに来るまでにレベルアップしてましたよね? ポイントの割り振りはしましたか?」
「あっ。まだでした」
「100階層に踏み入る前に済ませておきましょう。ついでに気持ちの整理もお願いします」
俺は脚を止め階段に腰かけると猩々緋さんに言われるがままステータス画面を開き、ポイントを割り振った。
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名前:白石輝明
職業:必殺暗殺者
レベル:83
HP:705/705
MP:654/654
攻撃力:646
魔法攻撃力:0
防御力:395
魔法防御力:365
敏捷:883
固有スキル:透視(覚醒済み)LV9【MP8】
技術スキル:剣術LV4、瞬脚LV5、即死の影LV6、回避の加護LV4、剛腕LV2、適応力LV2、毒の神髄LV2
耐性スキル:麻痺耐性LV4、毒耐性LV3、睡眠耐性LV3
保有スキルポイント:11
ジョブポイント:15
職業ツリー
【会心威力1.6倍】解放済み
【ジョブ進化。必殺暗殺者】解放済み
【敏捷:7段階目】解放済み
【攻撃:7段階目】解放済み
【複合:3段階目】解放済み
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小紫の分体との戦闘で若干感じていた火力不足を補うために大量のジョブポイントで会心威力を強化、スキルは取り合えず透視をレベルアップさせてみたが、それによってどれぐらいの効果の違いが現れるのかが分からない。
出来れば普通のモンスター用に肉質が柔らかい箇所なども分かると便利なんだが……。
「それにしても本当にスキルレベル30なんて到達するのか?」
「LV100を超えると嫌でも溜まっていきますよ。それに付随して習得スキルも増えますし、なんというかRPG感が一層増しますよ」
俺の独り言に猩々緋さんが返事をくれた。
なんかもの凄いタメ口を聞いた風になってしまったのが少し気まずい。
「ん? どうしました?」
「いや、すみません。なんかタメ口言ったみたくなってしまって」
「えっ? はははっ! そんな事気にしないでいいですよ。そもそも私の方が歳は下だと思いますから」
「でも会社だと年下でも目上の人にはですね……」
「目上……。ふふ、まさか私がそんな大層な立場になるなんて夢にも思ってませんでしたけどね。私はただ追いつくためにがむしゃらになっていただけですから」
追いつく。
それは多分S級1位の探索者の事を差しているのだろう。
もしかしたらそれは俺の椿紅姉さんに追いつきたいという思いに似ているのかもしれない。
「……俺も追いつきたい人、憧れの人がいます。その人が今絶体絶命の状態で。だから俺は焦って……」
「それが椿紅さんですか」
「はい。憧れの人が、目標の人がもう人に戻れないかもしれない。そう思うだけで、おかしくなりそうで……」
「……白石さんは椿紅さんを尊敬しているんですよね? だったらもっと彼女を信用してあげたらどうですか? 自分の憧れはこんなところで、終わる人ではないと」
「でも……」
「私が同じ立場で、もし彼が同じ状況に立たされていたとしたら、そこまで心配はしません。自分の尊敬している人はそこまで弱くはないので。それにさっき白石さんは『椿紅さんはスライムなんかに全てを乗っ取られるような人じゃない』って言ってたじゃないですか。あれは本心じゃなかったんですか?」
「……そうでした。俺はあの時心の底から――」
きゃぁあああああああああああぁああああ!!!!
その時100階層から女性の悲鳴が聞こえてきた。
俺は言葉を言い切らないまま、すぐさまステータス画面を閉じると猩々緋さんと共に慌ててその場を後にしたのだった。
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