第94話 分体
「【パーフェクトフューマノイドスライム(分体①)】……分体?」
「そう。僕はもう小紫じゃない。このダンジョンに巣食うモンスターの1匹。明確に敵なんだよ。白石君」
小紫は自分の右手をスライム状にしてうねうねさせながら笑う。
名前の変化があったという事、シルバースライムの特徴を持っているという事、これらから推測するに小紫はシルバードラゴンスライムと同じように、シルバースライムに寄生されて新たなモンスターと変化したのだろう。
だが同じように寄生され自己の意識が殆どなくなっていた椿紅姉さんと違って、小紫は意識を保っている。
その違いが生まれた理由は――
「その顔……シルバースライム、というよりメタル系のスライムの寄生という特徴を知っているのかな。それでなんで僕が意識を保っているのか。そう考えてるでしょ?」
恐ろしく的確に図星を突かれた。
こいつの洞察力はどうなっているんだ。
「最初は僕も意識を喰われそうになっていたよ。あの子のように。でも、僕に寄生したスライムが意識に触れる度に怯え、委縮して、そんなシルバースライムを飼いならすのは簡単だったよ」
「あの子?」
俺は小紫がモンスターになった経緯以上に『あの子』というのが気になった。
「君たちも知っている人物、今一番勢いに乗っているS級探索者椿紅さ。あの子はもう完全に意識を喰われてしまっていてね。僕以上にモンスターさ。でもスライムを操るスキルがあの子にだけ効かないんだよね。何でだと思う?」
「……それは椿紅姉さんがまだ人間だから。椿紅姉さんはスライムなんかに全てを乗っ取られるような人じゃない」
「……ふーん。でもあの子は喜んで人を殺すよ。間違いなく。運悪く右の階段を進んだ探索者達はいくら頑張っても結局あの子に殺されると思うと可哀想でならないよ。でもあの子の渇きを潤す為の道具になれるのは光栄かもよ」
「この先に椿紅姉さんが……」
俺はその先に椿紅姉さんがいると聞き、はやる気持ちを抑えきれなくなる。
ジャマダハルを構え、『瞬脚』を発動。
俺は小紫の心臓部分に見える点を突き刺しにかかる。
「どけ! 小紫!!」
「S級2位の攻撃をもってしても倒せない僕を君が倒せるとは思え――」
ドス。
小紫の余裕な表情が驚愕の表情に変わった。
「そうか。あの壁を壊したのは……。これはこれは、厄介な存在がいたもんだ」
「はぁッ!!」
一回では仕留め切れなかったので、俺は再びジャマダハルで小紫に攻撃をした。
早く、早くこいつを殺して先に進まないと。
「白石さん! 私達の任務は小紫の捕獲です! 殺しては……」
「はぁっ!! やぁっ!!」
俺は猩々緋さんの声を無視して小紫を攻撃し続ける。
すると、小紫の体がだんだんと薄く消え始めた。
俺はついに人を殺めてしまったらしい。
「はぁ、これでは任務は失敗かもしれませ――」
「ははははははははははっ!!! 面白い! 面白い力だ! 君の心の臓や頭をもしモンスターに食わせたら……。いい。最高の研究素材だ」
猩々緋さんがぼやくと消えていく小紫が高らかに笑い出した。
「小紫、お前まだっ……」
「いいえ白石君。僕、『分体①』はこのまま死ぬ。ただ、ここでの情報は『本体』に共有され生き続ける。だから待っていて。君を素材として必ず手に入れてみせるから。でも君と猩々緋さんに勝てそうなのって……。でも椿紅に任せるとぐちゃぐちゃにしそうだし……そうだあっちの人達を使――」
小紫は全てを言い切る前に、その姿を消した。
変に気に入られてしまったのは厄介だが、今は小紫なんてどうでもいい。
「進みましょう猩々緋さん」
俺はここに来て初めて、猩々緋さんよりも先に階段を下っていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。