第91話 再生

「うるがぁぁぁ……」

「あ、思ったより早く起き上がってきましたね。いやはや、見せかけだけのモンスターだったらつまらないと思っていたんですよ。でも、ここからどうしますか?」


 ギドラスライムは呻き声を上げながらも、何とか身体を起き上がらせた。

 フラフラとさせる体が今の攻撃のダメージを物語っている。


「うるがぁっ!!」


 俺達がギドラスライムが次にどんな行動を起こすのか注視して見ていると、真ん中の頭が唐突に大声で鳴いた。


 この行動には覚えがある。

 

 スライム特有の仲間の召喚だ。


「3つも頭があるのにまだ仲間を呼びますか」


 地面からは通常のスライムが20匹ほど湧いて出てきた。

 大勢でかかれば可能性があると踏んだのだろうか?


 であればこのギドラスライムには相手の力量を図る事が出来ない、頭の悪いモンスターという烙印を押さざるを得ない。


「「「うがぁっ!!!」」」


 万が一スライムの攻撃がこっちに飛び火してきたら直ぐに対処出来るように身構えた。

 だが、ギドラスライムはその鳴き声で自分たちの傍にスライム達を集め始めた。


 もしかしてまた合体か?


 そう思った時だった。

 

「「「うがっ!」」」

「きゅっ!」


 ギドラスライムは寄ってきたスライム達を3つの頭で食べ始めたのだ。


「醜いですね」


 仲間を喰うその光景は気分のいいものとは到底いえない。

 

 しかし、スライムを喰えば喰うほどギドラスライムのHPは回復していく。

 

 ギドラスライムからすれば自分の命の為に必要な手段。それをしなければどうしようもない、切羽詰まった状況と理解しているのだろう。


「すみませんが流石に見るに堪えません」


 いつの間にか猩々緋さんはギドラスライムとの間合いを詰めていた。

 

 苛立つような表情の猩々緋さんに躊躇う様子はない。


「うが――」



 パンッ!!!



 次の瞬間猩々緋さんの蹴りが右の頭を捉え、そしてその威力を持って頭を肉片に変化させた。

 轟く破裂音と、床にギドラスライムの破片が飛び散る音が響く。


「うがぁっ――」


 真ん中のギドラスライムは驚くような声を上げようとするが、猩々緋さんの今度はエルボーによって木端微塵。

 ギドラスライムは鳴く事さえも許されない。


 そしてあっという間に3つだった首は1つになり、急にその姿が貧相に見えてきた。


「あれ?HPが減りませんね? もしかして、個々でHP管理されているパターンですか? まぁあなただけ生き残ってしまってもしょうがな――」



 じゅる。



 猩々緋さんが残った頭を見つめながら首を傾げていると、破裂し飛び散ったギドラスライムの肉片が動き出し、更にはふわふわと宙に浮きだした。


 宙に浮いた肉片はギュッと集まり2つの塊を作ると、ギドラスライムの元まで移動する。


「再生能力ですか」


 2つの塊は元あった位置まで戻ると、完全に元通りの頭の姿に戻った。


 再生能力。

 なんともスライムらしいスキルだろうか。

 だが、強力なスキルでもそれを発動させる条件はあるはず。決してギドラスライムが不死身であると思いたくはない。


「頭を1つ残してしまったからですかね?」

「うがぁああ!!」


 ギドラスライムの3つの首がそれぞれ四方八方に、伸びていくと、それぞれが個々で別々の速さ、タイミング、角度で猩々緋さん襲う。


「遅いですね。この程度であれば回避に専念する必要はないです。それと……今度はその頭、1つも残してあげませんよ」


 しばらくギドラスライムの攻撃を躱していると、猩々緋さんは攻撃に転じる。

 

 猩々緋さんの動きを全く追えないギドラスライムは1つ、また1つと頭を破裂させられ、今度は再生する前に全ての頭が破裂させられた。


「これで終わ……。HPが減っていない? それに……」


 猩々緋さんは1つでも生き残れば再生出来るスキルだと確信していたのだろう。


 

 猩々緋さんは再びギドラスライムの肉片が動き、宙に浮かぶ様子を口を半分開けたままじっと見つめていたのだった。

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