第72話 +12万

「がばっああぁっ!!」

「くっそ」


 骨刺鎧ヒポモスは畳みかけるように身体に生える刺を射出した。

 エイムはガバガバなのか運よくほとんどの刺が俺の身体を掠る程度。

 ただ、真っ直ぐ俺に向かって飛んでくる刺もあり、それは自由に動く右腕のジャマダハルでなんとか打ち落とすしかない。


 身体を動かす度に痛む左腕。

 麻痺の効果のお陰で、痛みがそこまで大きくないのは幸運なのか……。


「がばああっっ!」

「それ無限に湧くのか?」


 全ての刺を射出し切った骨刺鎧ヒポモスが力むと再び刺が体に現れた。

 何とか凌ぎきったと思ってポーションを取り出そうとしてたのに……猶予は与えてくれないわけか。


「がばあっっ!!」

「っく!」


 再び射出される刺をジャマダハルで撃ち落とす。

 しかし、一回目の時よりも的確に俺を襲う刺を完全に打ち落とす事が出来ず、今度は左脚を貫かれた。

 

 まずい。機動力を完全に削がれた。


「がばっ!!」

「なっ!?」


 撃ちだされた刺がジャマダハルを弾き飛ばした。

 しかもまだ一つだけ刺がこちらに飛んできている。


「か、『回避の加護』!!」


 出来れば『回避の加護』は攻めのタイミングで使いたいところだったが、この刺をまともに喰らったら死へ直行する事になる。


「がばぁ?」


 『回避の加護』で運よく骨刺鎧ヒポモスの背後をとることが出来た。

 

 骨刺鎧ヒポモスは俺の姿を完全い見失ったようで驚いたような声を上げたが、すぐさま体に力を入れ、3回目の攻撃の準備に入った。


「がばぁ!!」


 四方八方に射出される刺。

 俺は身を屈めてそれが自分の元に届かないことを祈る。


 それにしても、このままじゃやられるのも時間の問題。

 武器もないし、どうしたもんか……。っく。


 痛む左腕と左脚。

 俺はそれを今の間に引き抜くと、ポーションと汲んでおいた水を飲んだ。

 

 うっ。苦しい。腹がいっぱ―


 俺は苦しくなった腹を左腕で撫でた。

 そう、左腕が動くのだ。どうやら骨刺鎧ヒポモスの刺による麻痺はそこまで強力なものではないらしい。


 であれば反撃をしたいところだが、武器が……。


「……刺」


 俺の目に入ったのは、さっきまで俺の身体に刺さっていた2本の刺。

 

「あくまで双剣スタイルで戦えってことかな」


 俺は骨刺鎧ヒポモスの刺が打ち終わるタイミングを図り、2本の刺を持った。


「『瞬脚』!!」

「がっばぁ!!」


 『瞬脚』で間合いを詰め一気に2本の刺で骨刺鎧ヒポモスに攻撃を仕掛けた。

 その瞬間骨刺鎧ヒポモスは体から刺を生やし、俺の右腹部を貫いた。


 痛みが全身を襲い手が止まりそうになる。

 だが、ここで動きを止めてしまっては次の攻撃のチャンスを失うどころか、反撃を貰ってしまう。


「と、どけぇっ!!」


 俺は両手に持った刺を無理やり骨刺鎧ヒポモスの体に突き刺した。


「がぁああああぁぁああ!!」


 骨刺鎧ヒポモスの悲鳴。

 それと共に身体の刺がひくひくと動く。

 まさか、このまま射出するつもりだろうか。そうなれば、間違いなく……。


「くっそぉぉぉぉおおおお!!! たおれ、ろぉぉおおお!!」


 諦めそうになる気持ちを無理やり心の奥にねじ込ませ、俺はその手に持つ刺を更に深く深く食い込ませる。


「だ、めか」


 ひくひくと動いていた骨刺鎧ヒポモスに生える刺がゆっくりとそこから抜け出そうとする。


 死ぬ。


「が、ぁぁああ……」


 諦めかけたその時、骨刺鎧ヒポモスの情けない鳴き声が聞こえた。

 よくよく見ると骨刺鎧ヒポモスは全身を細かく振動させていた。

 動き出そうとしているのだろうが、どうやら刺の『麻痺』が効いたようだ。麻痺を使う割に耐性は低いのか。


「……まさか自分の刺が仇になるなんてこいつ自身も思わなかっただろうな」


 俺はその様子を見て、ほっと肩を撫で下ろすとジャマダハルを拾い、骨刺鎧ヒポモスの正面に立った。


「『透視』。急所は……右目か」

「が、ぁああ」


 俺は動けなくなっている骨刺鎧ヒポモスの右目を正面から刺し潰す。

 そしてHPが削り切れるまで、刺さったジャマダハルをぐりぐりと動かす。


「がぁ……」

「やった……」

『+120000』


 骨刺鎧ヒポモスを倒すとそこには大量の獲得経験値が表示されていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る