第60話 慢心カバ馬鹿
「『瞬脚』!!」
ドボン。
その姿を捉えた俺は急いで『瞬脚』で距離を詰めた。
しかし、それを見たバグヒポモスは再び、沼の中に身を隠す。
「うっ! くそっ!」
姿を見失った事で再び思ってもいない方向から砂弾を浴びせられる。
俺は一先ずアイテム欄からヒポモスの皮を取り出し、それを頭から被った。
これで砂弾は防げる。
しかし、このままではこっちの攻撃が当たらないまま時間だけが過ぎてしまう。
依頼達成まで残り約15分。このままではこいつを仕留められる気がしない。
「くっ。 そっちか!」
砂弾が当たると同時に俺はその先に視線を移す。
俺が砂弾のダメージを貰っているのに関わらず、ノータイムで行動しだしたのが意外だったようで、バグヒポモスは一瞬戸惑いの表情を見せたが俺が駆けつける前にまた沼に潜ってしまった。
モグラ叩きのような構図にフラストレーションが溜まる。
あーもどかしい。
「かぱっ」
いらいらとしながら辺りを見回していると、俺の足元にあった沼からバグヒポモスが顔をだし、ズボンを思い切り引っ張った。
体制を崩した俺は思わず片足を沼に落としてしまう。
「こいつっ!」
沼にから顔を出していたバグヒポモス目掛けてジャマハダルを突き付けるが、時すでに遅し。
それどころか、脚と腕を沼に飲まれた俺は異変に気付いた。
「ぐっ! 抜けない」
ずぶずぶと体が沼に飲まれてゆく。
動けべ動くほど体は沼に絡められる。
「『瞬脚』……『瞬脚』!!」
焦りながらも『瞬脚』を何度か発動させると、その場から一旦離脱する事は出来た。
スキルのリキャストタイムの方が飲まれていくスピードを上回っていたからよかったが、もし、あのまま沼に飲まれてしまったら、どうなっていたか……。
考えただけで冷や汗が滲む。
「かぱ」
「しまっ!!」
『瞬脚』の移動先には既にバグヒポモスが待ち受けていた。
慌てて振り向くものの背後からの攻撃に対応出来ず、バグヒポモスの犬歯が俺の背中を傷つけた。
「ぐあっ! このっ!」
深くまでは刺さらなかったが強烈な痛みが襲ってくる。
俺はその痛みに耐えながら、ジャマハダルをぶん回すと、まぐれでバグヒポモスの額を切り裂いた。
バグヒポモスは攻撃を受けて、よろよろとしながら再び沼に潜る。
なんとか追撃は避けれたようだが、この状況はマズイ。
「ちっ!」
苛立ちが最高に高まった俺は、思わず覆っていたヒポモスの皮を地面に叩きつけた。
ヒポモスの皮は、たまたま近くにあった沼の真上に落ち、その上で揺らめく。
「はぁ、はぁ……ん?」
ヒポモスの皮は布とは違い決して軽くない。というよりそこそこ重い。
沼に落ちたのならもっと沈み込んでいくはず……。
「一か八かだな」
俺はヒポモスの皮を何枚か取り出すと、服やズボンの中、靴、靴下に至るまで、ぎゅうぎゅうにヒポモスの皮をねじ込んだ。
そして、その状態でゆっくりと沼に足を突っ込む。
「やっぱり。この沼も砂弾と同じってことか」
沼に突っ込んだ脚は先までとは違い、まるで水の中に突っ込んだようにさらさらとした感触で、簡単に抜ける事が出来た。
俺は思い切って、両脚を沼に突っ込むとその場で足をバタつかせる。
「浮く……」
立ち泳ぎのようにすることで体は簡単に浮き、一向に沈まない。
ヒポモスの皮はこの沼に対しても耐性を保有しているようだ。
「かぱ……」
俺が沼に嵌っているのを視認したバグヒポモスはこちらにゆっくりと近づいてきた。
……どうせならこのままこいつを騙してやることにしようか。
「や、っば! し、沈むっ!!」
わざと必死な形相を作り、沈む演技をする。
その光景が滑稽だったのかバグヒポモスは嬉しそうにこちらにやってきた。
「かぱぱぱぱっ!」
「ふ、『透視』『即死の影』」
嬉しそうに鳴き声を漏らし天を仰ぐバグヒポモス。
俺はその姿を逆に笑いながら見ると、沼から体を這い上がらせ、ジャマハダルを急所の鼻先に突き刺した。
バグヒポモスはそれに驚き、声も出せないようで、隙だらけ。
俺はたたみ込むように急所を再び突く。
「かぱぁ……」
バグヒポモスは全身を真っ黒に染め、その場から消えた。
『即死』で倒したが、さっきのまぐれ当たりのHPの減り具合から察するに、普通に攻撃するだけでも十分倒せる相手なのかもしれない。
経験値は『+900』
見た目通り、個体としての強さは大したことはないが行動があまりにもトリッキー過ぎた。
集団での攻めや、独特なスキル。ヒポモスという種類がすこぶる嫌いになりそうな予感がする。
『レベルが58に上がりました』
かなりの数を倒したがようやくここでレベルアップのアナウンスが流れた。
今後を考えて、防御的なスキルを持てるようにジョブポイントは割り振った方がいいかもしれない。
……それにしても。
「破ったり、どろどろにしてるがこの皮、納品しても大丈夫だよな?」
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