第58話 皮
「「「ばああああぁぁあああぁあぁ!!」」」
「うっ!?」
全てのヒポモスが耳をパタッと倒す。
そして、後方にいた3匹があり得ない程口を縦に開き、音による衝撃波を生む。
咄嗟に耳を両手で押さえるが、それでも鼓膜が揺れているように感じる。
辺りの草は細かく振動し、俺の身体も小刻みに揺れる。
ぼうっ!!
動く事さえままならない状態に追い込まれると、他のヒポモス達が口から何かを勢いよく吐き出した。
「いっ!!」
威力はサイリアの攻撃よりも低いが、ずっと受け続けていい位のものではない。
「う、ぐ、うっ!」
ヒポモスは地面に口を当てもしゃもしゃと口を動かし、それを吐き出す。
俺に降り注ぐなにかは唾液によって固められた砂の弾丸だったというわけだ。
正面と後背にいるヒポモス達は一方が弾丸を打ち出し、その間にもう一方が口に弾丸を込める。
モンスターのくせになかなかなコンビネーションだ。
「うっ! ぐっ! とにかく音をなんとかしないと……『瞬脚』」
俺は音を発しているヒポモスを目指し、『瞬脚』を使った。
1回だけでは届かない距離にいるせいで、移動中も『瞬脚』のリキャストタイム中も弾丸をもろに受ける。
シルバースライムでレベルを上げられたからまだごり押しが効きそうではある。だが、そうじゃなかったら今頃……。
「『瞬脚』」
「ばああ、あっ!?」
遂に音を出している3匹の正面まで移動出来ると、俺はすぐさま1匹ヒポモスの胸元まで迫った。
音を出す事に必死だったヒポモスは、その距離に俺がいる事に気付くと慌てた表情を見せた。
その隙に俺は喉を思い切り蹴飛ばす。
喉元は皮が薄いようで、脚がめり込む感触を強く感じることが出来た。
「ば、がはっ、げはっ!」
ヒポモスは音を発すのを止めてせき込み出した。
俺はその隙を突いて、『即死の影』の効果を張り替え、ヒポモスの鼻先にあった赤い点を蹴り飛ばした。
ヒポモスは喉の痛みと会心攻撃に悶え、怯んだので、何度も何度も蹴りを放った。
その間も他のヒポモスたちが砂の弾丸を飛ばしたり、音を発したりという事を一切止めない。
鬱陶しいが、変に仲間を守りに来た方が今の状況的にキツイ。正直助かった。
「がっ……」
「入った!! うっ! くっそ……」
俺が攻撃を10発程入れたころ、ようやく『即死』が決まり、スキルの効果も消えた。
喜んでいるのも束の間、1匹減った事で音は弱まるものの、砂の弾丸は絶えず飛んでくる。
そういえば俺が攻撃しているとき、砂の弾丸はたった今倒したヒポモスにも当たっていた。
だが、ダメージを受けている様子はなかった。それにいくら耳をぱたりと倒したからといって、この音に自分達が何も影響を受けないというのはおかしい。
「もしかして……」
俺はヒポモスがドロップした『ヒポモスの皮』をマントの様に羽織り、その端を少しだけ破いた。
破いたヒポモスの皮は口に含み湿らせ、耳の穴に突っ込む。
「……やっぱり。耳栓以上。それに皮の部分に弾丸が当たってもダメージがない」
俺の予想通り、ヒポモスの皮には高級耳栓以上の防音力と砂攻撃に対しての耐性があったのだ。
流石にヒポモスの皮の依頼数が多いのはこの為だったのだろう。
この防音力なら、いろんな製品に応用出来そうだし、なんというか……非常にビジネスの匂いがする。
「背中を向ければ無敵状態だな」
俺はヒポモス達に背を向けて、取り敢えずポーションでHPを回復すると、皮を頭から被って片手だけジャマハダルを握った。
「『即死の影』『透視』……『瞬脚』」
スキルを全て重ね掛けして、俺は近くに居た音を出しているヒポモスの鼻先をジャマハダルで貫く。
「よし、1発……」
「ばぁっ!!」
運よく1発でヒポモスを仕留め『+120』の数字ににやけていると、いつの間にかすぐ傍まで迫っていたヒポモスが大きな口で俺に噛み付こうとしていた。
しかし、攻撃は恐ろしい程遅く、避けるのは容易い。
「もしかして、お前ら1匹だと雑魚なのか?」
おれの言葉を理解しているわけではないだろうが、その言葉を発したと同時に砂の弾を撃っていたヒポモス達も一斉に俺に襲いかかってきた。
「お前らの敗因は仲間を守らなかったこと。上辺だけのチームが勝ちを拾えると思うなよ」
俺はヒポモス達を皮肉ると、一転して一方的な試合を繰り広げたのだった。
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