第56話 サイリア
「ご希望の依頼の受付を完了致しました。メールにて今回受付をさせて頂いた内容をお送り致します。かなりの量がありましたが、無理せず頑張ってください」
「はい。ありがとうございます」
忠利の店を出た俺は品川にあるダンジョン【重獣】の2階で依頼の受付を済ませた。
自分のランクがCという事もあり、何度も本当にこれで大丈夫かと聞かれたがなんとか受付終了だ。
受付だと依頼を受付の方と丁寧に確認後、必要事項を記入、押印までしないといけない為なかなかめんどくさい。
ちなみに俺が受けた依頼は全部で10。
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①ヒポモスの皮×10
②サイリアの鎧皮×15
③午後2時から午後3時まで10階層ボス討伐
④最新の匂い消しの元となっているフィト草×20
⑤ヒポモスの皮×15(別依頼主)
⑥ヒポモスの皮×15(別依頼主)
⑦将軍サイリアの魔石×1
⑧ファングヒポモスの魔石×10
⑨ファングヒポモスの皮×20
⑩翌日51階層~60階層への階段をマーク
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モンスターの皮が多いのは主に中小企業が製品の開発用に必要だからだそうだ。
俺達が売却所で売り渡した素材は探索者協会と直接繋がっている大手企業をが優先的に買い取る為、他の企業はこうして素材を手に入れようとすることが多いらしい。
まぁ、そのおかげで忠利の店にも素材を求めてくる人たちが後を絶たないらしい。
ああいった専門店でも素材を買い取って、しかも売り出すのは珍しいらしく、なんでもそれが出来る資格を手に入れるには探索者としてB級以上の実力がいるらしい。
本当を言えば大手企業は素材を独占して、自分達だけでダンジョンのアイテムを用いた新たな商品の開発、販売をしたいのだろうが、あからさまにそれをしていると、各方面からバッシングを受けるというデメリットを負う。
他の企業による探索者への依頼を制限していないのは、そういった理由からだろう。いわゆるカモフラージュだ。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。
「あ、やばっ! 受付ありがとうございました。またお願いします」
ビルの中に昼の鐘が鳴り響き、俺は急いで1階に向かった。
午後2時から午後3時の間は誰でも10階層以降に進めるようにして欲しいという依頼は受けるべきじゃなかったかもしれない。
というか、なんでこの依頼このギリギリまで残ってたんだろ?
俺はそう思いながら、颯爽とダンジョンへ潜るのだった。
◇
「ぶるるる……」
「サイが2足歩行。でも色は違うか」
ダンジョン【重獣】1階層。
ダンジョン【獣】と似た風景だが、草は腿位の位置まであり、かなり動き辛い。
それに、木々が多く、遠くには水辺のようなものも見える。
そんな新たな風景に目を奪われていると、草をかき分けながらい凄まじい勢いで一匹のモンスターが俺に近づいてきた。
そのモンスターは俺の手に既に武器が握られているのを見ると、足を止め、ゆっくりと立ち上がり、背負っていた大きめの斧を両手に持った。
顔は間違いなくサイ。
だが色は黒で、手には4本の指があった。
器用に斧を持ち、手癖なのかくるくる回している。
いっちょ前に胸部と下半身に防具を纏っているのがゆるキャラ感が出ていて嫌いではない。
「サイリア……サイウォーリアーの略か?」
「ぶるるる……。るっ!!」
俺が表示されていた名前を見て微笑むと、サリアの一定のリズムを刻んでいた鼻息が急に荒くなり、唐突に襲いかかってきた。
俺の表情を見て、攻撃のチャンスだとか思ったのだろうか?
「速っ!」
サイリアの斧は思った以上に素早く振り下ろされ、伸びていた草を切り裂いた。
今のはなんとか避けきれたが、巨体に騙され油断でもしようものなら殺されていたかもしれない。
「ぶるぁっ!!」
「≪透視≫」
続け様に斧を振るサイリア。
俺は避けつつも≪透視≫を使ってその斧に青い点を浮かばせた。
「ぶるぁっ!!」
「ここだっ!」
青い点があったのは斧の刃の中央。
俺はサイリアの振り下ろす斧の青い点を狙いジャマハダルでカウンターの突きを炸裂させた。
「ぶぁ!?」
「これで、武器はなくなったな。次はこっちか――」
斧がバラバラになったことで驚いたサイリアに攻撃を仕掛けようとしたが、突如身体が動かなくなった。
麻痺とは違った感覚で頭がくらくらと……もしかしてこれが『スタン』?
「ぶるがっ!」
「やっ――」
サイリアの渾身の右ストレートを腹にもろに受けてしまった。
膝から崩れ落ちそうな程の衝撃が体を襲い、口からは唾が噴き出した。
「……強い」
今までのダンジョンよりも遙かに強い通常階層のモンスター。
だが、これから挑む予定のダンジョン【スライム】の40階層以降はここよりも強い。ましてや椿紅姉さんはもっともっと……。
「足踏みなんてしてられない……【即死の影】」
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