第47話 あいつ

「254位から83位。桜井さんのお陰だよな。間違いなく」


 あれから5日。

 ダンジョン【獣】でホーンラビットを使った経験値稼ぎで桜井さんのレベルを40まで引き上げると、俺は依頼達成の報告をして、急激に自分の順位を上げていた。


 灰人は退院すると、休むと言いつつも、忠利の店でアルバイトとして働いている。

 ちなみに前の会社に戻る気はないと宣言していた。

 一度自由な時間を味わってしまうとブラック企業に戻る気になれないのだろう。


 俺だって今からあそこに戻りたいとは全く思わない。


「それにしてもダンジョン【スライム】か。なんか、久しぶりだな」


 俺は前日に『ミニドラゴンスライムの魔石を10個納品』という依頼を受けていたため、再びダンジョン【スライム】に潜っていた。


 この薄暗い洞窟のようなダンジョンがなぜだか安心する。


 ちなみに俺のステータスは


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名前:白石輝明

職業:必殺暗殺者

レベル:48

HP:149/149

MP:100/100

攻撃力:132

魔法攻撃力:0

防御力:122

魔法防御力:112

敏捷:155

固有スキル:透視(覚醒済み)LV5【MP1】

技術スキル:剣術LV4、瞬脚LV3、即死の影LV2

耐性スキル:麻痺耐性LV3、毒耐性LV3、睡眠耐性LV3、適応力LV1

保有スキルポイント:7

ジョブポイント:13

職業ツリー

【会心威力1.4倍】解放済み

【ジョブ進化。必殺暗殺者】解放済み

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 ジョブが進化した事で攻撃、HP、敏捷性が飛躍的に上がっている。

 そして俺は即死スキルを遂に覚えた。


 これで確定会心からの即死コンボがようやく実現出来るようになったというわけだ。


 どれだけ格上の相手だろうと、高HPのモンスターだろうと、メタリック系やメタル系のモンスターであろうと運さえよければすべて一撃。

 

 これ程ロマンが詰まったコンボはないだろう。


「桜井さんの親みたいな依頼は今後受ける機会は殆どない。こっからは一気にレベルを上げて、難易度の高い依頼をこなせるようにして出来るだけ早くC級10位に入らないと……」

「おや? 聞いたことのある声がすると思ったらいつぞやの人じゃないですか?」


 俺がダンジョンの一層でステータスを見ていると、背後からおとこの声が聞こえた。

 忘れもしないこの声。

 灰人をあんな状態にするきっかけを作り、間接的に人を1人殺した張本人。


 橙谷さんが探索者協会に報告した後、この声の主は国からモンスター研究者としての資格をはく奪され、ダンジョンには潜れなくなったと聞いていたのだが……。


「いやー君と橙谷君がダンジョン【獣】のボスの事をちくるものだから、こうやってダンジョンに入るのも大変で……まぁ元々僕がいけないんだけど」

「……小紫」


 俺は振り返ると小紫を睨んだ。

 どういうことか顔がまるで違うが、小紫で間違いない。

 整形……にしては早すぎる。何らかのアイテムか、こいつのお得意なモンスターの実験を利用した何かか?


「呼び捨て、か。相当お怒りみたいだね。でも、別に死んだのはあの時のパーティの子達じゃないんでしょ? だったらそこまで怒らなくても……」

「お前っ!!」


 俺は小紫の胸ぐらを左手で掴んで右の拳を振り上げた。


「……殴らないのかい?」

「……探索者同士の戦いは原則禁止。俺はお前なんかの為に罰則を受けるつもりはない」

「ふーん。意外に冷静なんだね」

「それで、お前は何をしに来たんだ?」


 俺は手を離し、小紫に質問を投げかけた。


「いやー。今回の件で、ちょっと思い出したことがあって、その確認と、それを利用してこんごの身の振り方を決めようかなって」

「思い出したこと?」

「まぁ、君みたいな下級探索者には関係ない事だと思うから、気にしないでいいよ」

「……お前は、今回の事件で人が死んだことに対して何も思わなかったのか? なんでそんな飄々としていられるんだ?」

「んー。別に僕には関係ない人間だったし、そもそも僕、人間って嫌いなんだよね、無駄に頭が回って、仲間を言葉で卑下して。モンスターなんかよりもよっぽど害悪だと僕は思うけどね」

「……やっぱり狂ってる」

「それはどうも。じゃあ僕は急いでるから。じゃねっ!」

「まてっ! お前をこの先には――」


 小紫をこれ以上ダンジョンの先に進ませないよう語りかけようとしたが、小紫は消えるようにしてその場からいなくなった。

 

「くっ! ≪透視≫」


 透明になった可能性もあると思い、俺は慌てて≪透視≫を使ったが赤い点はどこにも見当たらない。


 間違いなく魔法紙ではない。という事は移動系のスキルで間違いないだろう。


「くそっ!!」


 俺は小紫の発言と逃げられたという事実に怒りを覚え、地面を思い切り蹴飛ばしたのだった。

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