第34話 対抗心

 5階層。現在のホーンラビット討伐総数75。

 1フロア平均15匹。総経験値6000。


 ホーンラビットのリスポーンは大体40分。その間に、俺が角を折った個体を2人は難なく倒していった。


 灰人は職業選択の出来るLV20を超え既にLV24。桜井さんもLV32までレベルが上がっていた。


 レベルが上がるにつれて必要経験値が増えるから、この後伸び悩む可能性はあるが、40位ならこのままぶっ続けでレベルを上げていけば、あっと言う間に――


「はぁ、はぁ、はぁ、んっ。に、兄さんそろそろ休憩したいんだけど……。っていうかなんで兄さんはそんなに平気そうなの?」

「そうですわ。もう3時間以上戦いっぱなしのなのですからそろそろ休憩にしましょう」


 2人がホーンラビットを倒し切るよりも俺が角を折っていく方が早く終わるので若干休みを挟めている。

 だが桜井さんと灰人の2人は動きっぱなしで、きつかったはずだ。

 俺の配慮不足だ。申し訳ない。


「そうですよね、すみません。ちょっと休憩にしましょう」

「そうしましょう! 魔法紙を使いますから皆さんこちらに近寄ってくださいませ。【レストスポット】」


 そういうと桜井さんはアイテム欄から白と緑の縞々柄の魔法紙を取り出し、それを破った。

 これは休憩スペースを30分だけ作る事の出来る魔法紙。

 今の様に狭めだが円状に壁が張られ、モンスターや地形の干渉を受けずに済むセーフティエリアを作ることが出来るのだ。


 ただし、この壁を壊したり、乗り越えたりすると30分待たずしてエリアは壊れてしまう。


 これを使ってヒット&アウェイ的な戦闘が出来るのでは、と思った事もあったが一度出れば壊れてしまうというのは何とも使いづらい。

 それにこの魔法紙はそれなりの値段がする。


「ふぅ。ご飯の前に報告しますと、私新しくスキル『リジェネ』と『ミニマルチヒール』を覚えましたの。この後のボス戦は任せてくださいまし」

「マジですか! だったら俺がボスに突っ込んでっても問題ないですね」

「灰人はもっと敵を観察して戦った方がいいですわ。無鉄砲過ぎて冷や冷やしますの」


 俺は自分の仕事をこなしているから殆ど2人の戦闘は見ていないが、灰人の戦闘スタイルはとにかくごり押しらしい。


「そういう戦い方をするならいっそのことタンク的な育成方針にしたらどうだ? 職業は剣士にして、盾とか持ってさ」

「タンクか……確かにアタッカーで兄さん、回復で桜井課長、で俺がタンクならバランスがいいかも。……じゃあそうしようかな」


 灰人はステータスを表示させると俺に言われるがまま、職業の選択をした。

 前々から灰人は他の人に影響を受けやすい、というか俺の意見を飲み過ぎる所がある。


「タンクだと今後痛い思いをする事が多いかもしれませんわよ? よろしいのですか?」

「我慢するのは慣れてるので。それに攻撃ばっかりが強さってこともないでしょ」

「なら構いませんが……それはそうとご飯ですわ。コンビニ飯というものがどの程度の美味なのか私が評価してあげますわ!」


 このダンジョンに来る前に食事だけコンビニで用意したわけだが、桜井さんはコンビニも初めてだったようで、ずっとこの時間を楽しみにしている節があった。

コンビニ飯にそこまで目を輝かせる大人はそうそういないだろう。


「この炒飯……油でギトギトですけど、おいしいですわ!」


 コンビニ特有のおにぎり型炒飯をおいしそうに頬張る桜井さんを見ながら、俺は経験値の取得結果をメモし、自分も飯時に移るのだった。



「さぁ、どんどん倒しますわよ!」


 30分の休憩が終わると俺達は再び狩りに移ろうとしていた。

 正直今までの疲れからか眠気が……。



「おっ! 低級探索者が兎狩りか? しかもパーティーまで組んで」



 セーフティエリアが消えてすぐ、丁度通りすがった男の探索者が俺達に話し掛けてきた。


「そうですわ。何か悪いかしら?」

「いや、別に悪くはないが。いやー弱い探索者は考える事がちがうなぁってさ。別に止めるわけじゃないが、そういうのちょっと目障りかもな」

「あなた、少し失礼過ぎじゃありませんこと?」

「その変わった口調。どこかのお嬢様なのかな? 男2人をダンジョンで侍らして、ご機嫌ですねぇ」

「あなたいい加減に――」

「桜井さん」


 俺は右手を振り上げる桜井さんを慌てて止めた。

 ダンジョン内での人同士での戦闘はご法度。探索者協会にバレれば罰を受ける事になりかねない。


「それじゃあ俺はこれから50階層に行かせてもらう。お前たちも頑張って俺みたいに強くなるんだな。まぁ無理だと思うが……ふふふ」


 そう言い残し男はこの場を去った。50階層に向かうという事はそれなりの実力者なのだろう。

 何となく雰囲気もあった。


「行きますわ」

「え?」

「私達も50階層に行きますわ!! 絶対今の男を見返してやりますわ! 白石君、灰人、一旦戻って準備しますわよ!」


 桜井さんの対抗心に火がついてしまった。

 面倒な事にならなければいいけど。

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