第33話 作戦開始
「ひっろ!! あかるっ!! 最高のダンジョンじゃないか!」
「灰人、お前本当にダンジョン【ゴブリン】で何があったんだ?」
「いやぁ、あっちは暗いし臭いし、ゴブリンが共食いしてるし……ボスはガチムチで暑苦しいし」
「本当にありがとうな」
昨日の事を振り返り、しみじみとし出した灰人。
改めてボス討伐証をとってきてくれた事に感謝だ。
「広い階層ですわね。こんなに広いと迷子になる事もあり得ますわね。そんな時は、ステータスに追加されてるパーティーメンバーをタップですわ!」
説明口調な桜井さんに若干違和感を感じつつも、ステータス画面を開きメンバーの名前をタップした。
すると、ステータス画面が緑一色に変わり、黄色い点が2つ、チカチカと点滅した。
「その点は自分以外のパーティーメンバーを指し示していますの、状態によって赤や青などに変わり、メンバーの危機を教えてくれますわ。それとその点をタップすると、そのメンバーの場所への経路が表示されて、しかも、外でこの機能を使うと潜っているダンジョン、そもそもダンジョンに潜っていないという事も知らせてくれるんですの」
「なんかGPS付けられてるみたいで怖いですね」
灰人の顔が引きつっている。
確かに常に自分の状況を覗かれているようで少し落ち着かない。
「いいですか。パーティーというのは一心同体。仲間であり家族。このくらいの情報は共有して当然ですの」
「そんなもんですかねぇ」
「そんなものなのですわ。そんなに言うなら灰人がピンチになっても助けに行ってあげませんわよ」
「すみません……」
桜井さんは勝ち誇ったように胸を張った。
そういえば灰人が買ったばかりの胸当てを装備しているのだが、スポーツ用のTシャツに胸当てが似合わな過ぎて笑える。
「それと、パーティーメンバーは一部の回復アイテムの効果を共有、MPの譲渡が出来ますの。この辺りは必要になったときに試してみましょう」
「そうですね。それじゃあ今回の目当ては11階層から20階層になるのでそこまで向かいましょうか」
「待ってください! そういう指揮は私がしますから白石君は参謀的な感じでいてくださいまし」
どうやら俺は桜井さんの参謀になったらしい。
会社に勤めていた時の我儘、仕事押し付けられ役よりはよっぽどいいか。
◇
「11階層。目当てはここからでしたわよね。白石君」
「……」
俺達は10階層のボスを難無く倒し、11階層に訪れていた。
灰人には念の為ボス戦を見学してもらって桜井さんと俺だけで倒したのだが、灰人は終始『すげー』としか言わず、俺は何となく誇らしい気持ちになった。
思えばあんまり兄として灰人に良いところを見せれた覚えは無かったのだが、少しは憧れの椿紅姉さんに近づけているのかもしれない。
椿紅姉さん……。
「白石君? 聞いてますの?」
「あ、す、すみません。ここからは目当てのホーンラビットが出現するようになります。普通に倒すだけだとコボルト以下の経験値ですが……丁度いいところに」
俺は少し先にホーンラビットを見つけた。
「≪透視≫」
≪透視≫を使うと、今度はホーンラビットにゆっくり近づく。
「キッ!」
「はぁッ!」
俺はホーンラビットの角に映っていた青い点をジャマハダルで突き、角を折った。
そしてそのまま胸を串刺しにする。
すると俺の目の前には『+16』という取得経験値が表示された。
「48!? こんな明らかに弱そうな相手ですのに!」
「ホーンラビットは角を折った後に倒すと経験値が多く貰えるんです。そこで俺の考えた作戦は……『ちきちき! 角折って、ハイエナ選手権』です」
「兄さん、キャラと合ってないよ」
「たまには明るい雰囲気も、と思ったんだが……駄目か」
灰人に突っ込まれ桜井さんを見た。今までにないような何とも言えない表情。
そんなに俺がテンション高めだとおかしいのか?
「……その、それはどういった作戦ですの?」
「単純です。俺がこのフロアにいるホーンラビットの角をひたすらに折っていくので、2人にはその後処理をしてもらいます。それで、あらかた倒したら次の階層、また倒したら次の階層、ボスまで行ったらいったん休憩です。さぁ頑張ってきましょう」
「スパルタですわ……」
「ブラック企業じゃなくてブラックパーティーだったか……」
何故か2人は俺の作戦を聞いて項垂れてしまうのだった。
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