第9話 まだ見ぬ経験値のカモ
「この武器はスキルが付与されていた。そして白色の☆が付けられていた。いわゆる進化前武器ってやつだ」
「進化前武器?」
「もしかして知らないのか? はぁー。進化前武器っていうのは必要素材を与える事で更に力を増す武器の事で……もっと簡単に言えば、武器なのに伸びしろがあって強い武器ってことだ。正直俺も見たのは初めてなんだぞ」
そんな事を言われても急に驚く事は出来ない。
とにかく強い武器ってことは分かったから嬉しいには変わりないが。
「使った魔石に関わらず、精製した武器が進化前武器である確率は低い。因みにスキルを付与できない場合だって……。輝明……お前本当に運がいいな」
「そうなのか? それより俺はスキルの方が気になるんだが……」
「ああ、スキルな。スキルは俺が思っていたのと大分違うものが付いてた。【浸食】っていうスキルなんだが、これ、結構面白いスキルだぞ」
【浸食】。おそらくレッドメタリックスライムが他のモンスターに寄生出来るのもこのスキルのお陰なんだろう。
「鑑定結果を読み上げると、パッシブスキル:【浸食】ダメージを与えた対象を低確率で自己の思念又は毒で侵す。※武器スキルに変化した為武器に自己の思念はなく前者の効果は発揮されない。言い換えるとダメージが入る敵全員に毒を付与出来るチャンスがあるってことだ」
俺は会心の一撃でレッドメタリックスライムのようなモンスターでもダメージを入れられる。
毒の効果を阻める敵は今のところはいないという事。
毒の使い道はぱっと思い浮かばないが、ダメージ量を増やせるならそれにこしたことはない。
「因みに進化素材にシルバーメタルスライムの心臓×1、レッドメタリックスライムの魔石×10が必要らしいぞ」
「シルバーメタルスライム!?」
「俺もまだ見た事も聞いたこともないモンスターだが、もっと経験値をふんだくれそうなモンスターはいるみたいだな」
「そうだ――」
「ねえあなた。その武器見せてくれませんこと?」
「うわっ!?」
忠利の後ろから一人の女性が現れた。
派手な金髪に明らかなお嬢様口調に派手だが小回りの利きそうなドレス。
あの垂れている目、日本人離れした綺麗な鼻。
なんで、ここにいるんだ。桜井課長。
「い、いらっしゃいませ」
「もう、お客様への挨拶が遅すぎますわ」
「桜井課長……」
「あら、お久しぶりですわね。白石君」
俺は桜井課長と目を合わせ息を飲んだ。
直属の後輩だった俺は課長に良いように扱われ、若干のトラウマを芽生えさせていた。
やっと解放されたと思っていたのになんで……。
「なんでって顔してますわね。いいですわ。教えて差し上げます」
桜井課長は近くにあったカウンターにもたれながら話し始めた。
別に頼んだわけでもないのに。
「実はお父様の知り合いが探索者協会で働いましてね。こんな情報を手に入れたんですの。レッドメタリックスライムの魔石が協会外で買い取られた、と」
「だからってなんで桜井課長がここに?」
「新発見の魔石の独占保有は桜井コンツェルンの大きな利益につながるとお父様が判断したんですの。それで、都内の探索者専用のお店を回っていて、たまたま今日ここに赴いたんですの」
桜井コンツェルン社長の娘桜井綾子。
仕事は出来ない。俺よりも上の役職に居たのはそれが親の会社だったから。
一部からは置物課長なんていうあだ名まであったほど。
「なるほど。それでお目当ては見つけたんですか?」
「勿論。私の固有スキル≪地獄耳≫で聞いてましたもの」
「固有スキル、桜井課長、あなたもしかして探索者に?」
「ふふふ、御明察。ねぇ白石君。あなた、私の物になりませんこと?」
「嫌だ。と言ったら?」
桜井課長の元で働くのは勘弁被りたい。
ここは意地でも断るしかない。
「嫌って……そんな。貴方だけは私を嫌わないでくれて……う、う、うぅうぅ」
「えっ! ちょっ!」
「うぁああぁあぁぁああ! 振られたぁ! いやぁ! 折角! 折角探索者になったのに!」
桜井課長は号泣しながら店を後にした。
一体何だったんだあの人。
「と、取り敢えず、ほら、大事にしろよ」
「あ、ありがとう」
俺は気まずそうな忠利からジャマダハルを受け取ると、一旦家に帰る事にしたのだった。
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