第3話 魔石の価値

「お帰りなさいませ。探索お疲れ様です」

「高橋さんこそお疲れ様です」


 結局職業の選択は自宅で行いたいので保留にしダンジョンを出ると、いつもの笑顔で受付嬢の高橋さんが迎えてくれた。

 今は午前1時。夜勤勤務中だというのにこの笑顔を出来るのはすごい。


「早速で申し訳ないんですけど売却所までお願い出来ますか?」

「はい。了解です」


 俺は高橋さんに促され売却所に向かった。


 このように発見されているダンジョンには出入り口に受付が設けてある。

 そもそも探索者協会によってダンジョンを内蔵させるようにビルが建設されていて、受付以外にも様々な施設が用意されているのだ。


「お疲れ様です。まずはアイテム欄のチェックをさせて頂きます」

「はい」


 その内の1つが今俺の目の前にあるアイテム売却所だ。

 探索者協会は様々な物資を集め、それを企業、又は国にそれを販売している。

 物資は探索者協会から個人やパーティーという風に個別に依頼をすることもあるが、基本はこの売却所によって収集している。

 その為探索者には1回のダンジョン挑戦で最低1つのアイテムを売却することが義務付けられている。

 もし何もダンジョンで拾得出来ず、売却が不可能という場合が5度起きると罰金か最悪探索者の資格を剥奪されるらしい。


「んー……。スライムゼリーとレッドスライムゼリーが多いみたいですが」

「大丈夫です。これはペットの餌にするので」


 売却所のお兄さんは俺のアイテム欄のスライムゼリーの数を見て渋い顔をした。


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アイテム

・スライムゼリー×13

・レッドスライムゼリー×5

・魔光石×10

・ボススライムゼリー×1

・ボススライム討伐の証×1

・レッドメタル鉱石×1

・レッドメタリックスライムの魔石×1

・鉄の剣【装備中】

・白の魔法紙【携帯用トイレ】

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 スライムゼリーを初めて売却した時はこんな金にならないアイテムなのかとがっかりしたが、愛犬のハウが好物ということもあってついつい拾いすぎてしまう。


「ボススライムゼリーはかなり出回っているのでまぁ1000円位、ボススライム討伐の証も1000円、魔光石は1個300円で10個だと3000円。レッドメタル鉱石は……ん?」

「どうしたんですか?」


 レッドメタル鉱石の値付けで売却所のお兄さんの顔つきが変わった。

 レッドメタルスライムの出現は確かに驚いたが、そこまで強い敵でもなかった。

 多分ドロップ品に関してもそんな価値は無いと思って期待していなかったが、ひょっとしたらひょっとするか?


「えーっ。レッドメタル鉱石とレッドメタリックスライムの魔石は両方5000円、合わせて1万円ですね」

「1万円!?」


 全然苦戦しなかったモンスターでこれだけの利益。


 あのモンスター旨すぎるな。


「合計で1万5千円になります。全て売却でよろしいですか?」

「じゃあボススライム討伐の証だけ残して他は――」


「ちょっと待てっ!」


 俺が売却をお願いしようとすると背後から低い男らしい大声が耳を劈いた。


「な、なんですか、あなたは? 今は他の探索者様のドロップ品に値付けしているところなんですが」

「その値付け、俺が物申す!」


 声の主は俺と売却所の男性との間に割って入った。

 男性は極端にガタイが良く、比較的ひょろい俺はそれだけで危なく転ぶところだった。


「まず、レッドメタリックスライムの魔石。魔石は種類によって値段が大幅に変わる。希少なモンスターからドロップした魔石ならば間違いなく100万以上」

「そ、そんなに高価なものなんですか?」

「お前新人か。いいか、魔石は特殊な武器の素材にも職業ツリーの解放にもはたまたそれを体内に取り入れ、新スキルを得られるかもしれない、というアイテムだ。その価値は最低で5000円ってとこだろ」

「ということは?」

「こいつはレッドメタリックスライムの希少性を最低と目利きしその値段を付けたんだ。それはどう考えてもおかしい」


 売却所のお兄さんは苦虫を噛み潰したようななんとも言えない表所を見せるとゆっくりと口を開く。


「結局のところスライムですからこの価格が妥当かと……」

「じゃあなんでその結局スライムといったレッドメタリックスライムのドロップ品であるレッドメタル鉱石にも5000円という値段を付けたんだ?」

「そ、それは……」

「魔石を低価格で買い取る為にわざと他を高めに値付けして違和感を消した。そういう事だろ?」

「そんな事は!」

「レッドメタリックスライムの存在は探索者の中でも有名。だが、そのレッドメタリックスライムを倒した探索者は今までにいない。もしもその魔石が現れたとなればその珍しさだけで高価格の取引が出来る。違うか?」

「くっ!」


 売却所のお兄さんが黙り込むとガタイの良い男性は俺と目を合わせた。


「そのアイテム、良ければ俺に買い取らせてくれないか? 相場がないものにはなるが低価格の買取だけは絶対にしない」

「それは構いませんが、あなたは?」

「俺は探索者兼鍛冶屋の緑忠利(みどりただとし)だ。今日は相方もいないし買取は明日でもいいか?」

「俺は白石輝明っていいます。それで大丈夫です」


 ひょんな事から買い取りをお願いすることになってしまった。

 ただ悪い男には見えないからきっと大丈夫だろう。


「あ、じゃあその2つ以外の買取をお願いします」

「……かしこまりました」


俺はアイテム欄から売却したいドロップ品を取り出し、売却所のお兄さんに渡した。


「輝明、売却手続きが終わったら連絡先の交換を頼むな」

「あ、はい」

「あはは、敬語は止めとけって俺はこれでもティーンエイジャー。たぶんお前と同じくらいの歳だぞ」

「10代!? 俺、今年27なんだけど」

「え?」


 もしかして俺ってかなり童顔なのかな?

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