経験値モンスター狩り特化型最強探索者~ダンジョンが現れた世界で俺の持つ無能スキル≪透視≫が覚醒しました!経験値モンスターの急所を丸裸にして確定で会心の一撃を放つことで経験値の荒稼ぎを開始します~
ある中管理職@会心威力【書籍化感謝】
第1話 覚醒
「中ボスってこんなに強いのかよ……」
俺の目の前にはボススライムという表記があるモンスターが1匹。
HPゲージは半分ぐらいまで減らせたが、俺のHPは残り11。元々の3分の1以下まで減っていた。
ブラック企業を退職し探索者となった俺はD級ダンジョン【スライム】に通い詰めていた。
最初1か月は1層、2層でのレベル上げを探索者協会に推奨されたが、なかなか上がらないレベルに嫌気が指し、遂この10層、中ボスの間まで来てしまったというわけだ。
「きゅるぁあああああ!!」
「スライムが鳴いた!?」
独特な声でボススライムが鳴くと、地面から通常の小さいスライムが3匹現れた。
3mほどあるボススライムと比べれば何とも可愛らしく見えるが、最低でも3撥攻撃を入れないと倒せないくらいにはタフ。
「ちっ!」
俺はまず通常のスライムに向かって持っていた鉄の剣を振り払った。
1体に命中するもののやはり1撃では倒れてくれない。
ぽよん。
「なっ!? 飛んだ!?」
俺が通常のスライムに気をとられているとボススライムが大きく跳ね上がり、俺の身体をその巨体の陰で覆った。
全身全霊ののしかかり攻撃を頭上から決める腹なのだろう。
「まずい! っつ!」
慌てて逃げようとするが周りを3匹のスライムに囲まれ、しかもスライムたちは逃げようともせず果敢に攻撃を仕掛けてきた。
ボススライムののしかかり攻撃を避ける気はなく、まるで俺を道連れにでもしようとしているようだ。
「くそぉぉぉぉおおおお!! どけぇえええ!!」
剣を振り回し、通常スライムを追い払おうとするが中々剣が当たってくれない。
そうしていつの間にかボススライムの巨体はもう避けれないところまで迫り……。
どすんっ。
鈍い音を立てながら俺に覆いかぶさったのだ。
「ぐあああああああああああっ!!」
身体に激痛が走り、痛みの所為で意識を失う事も出来ない。
幸いだったのは頭がのしかかり攻撃の範囲外で潰されなかったという事。
「死ぬ……死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、嫌だ! 死にたくない! 俺はまだあの人と――」
「炎赤刃(えんかじん)」
ぼと。
遠くから女性の声が聞こえると、急に体が軽くなった。
涙でぼやける視界でも分かった事は、目の前にボススライムの上半身が転がっていて、断面から溶け出しているという事だった。
「……あっち! と、とにかく抜け出さないと……」
俺は慌ててボススライムの下半身から抜け出した。
下半身は上半身と同じく溶け出し、しかもかなりの高温になっていたのだ。
ボススライムはそれでもピクリピクリと動いていたが、溶けるのが次第に早くなると完全に沈黙した。
『レベルが20に上がりました。職業の選択が可能になりました。スキル≪透視≫が覚醒しました。スキルのお試し発動をしますか?』
すると頭に無機質な声のアナウンスが流れた。
俺の持つ固有スキル≪透視≫は対象の骨格などを透かして見る事の出来るスキルで、例えて言うならお手軽レントゲンのようなものだ。
透視の深度は調整出来ないので、エッチな目的には全く使えない。それどころか戦闘で使う場面が全くない。探索者が持つには無能と言わざるを得ないスキルなのだ。
「≪透視≫が覚醒って……」
「おい、大丈夫か?」
改めて自分の固有スキルの無能さにため息を溢していると、目の前に綺麗な長い黒髪女性が現れた。
この女性に俺は見覚えがある。それどころか、よく知っている。
幼馴染で憧れで年上の御近所のお姉さんだった人。
序列8位S級探索者の椿紅帆波(つばいほなみ)。今では雲の上の存在だ。
「おい! 聞いてるのか!」
「は、はい!」
椿紅姉さんは惚ける俺に対して強めに問いかけてきた。
この圧、昔と変わらないけど……何故かよそよそしさを感じる。もしかして――
『かしこまりました。スキルをお試し発動します。お試しになりますのでMP消費は0になります』
「えっ?」
椿紅姉さんに返事をしたつもりがアナウンスの返答になってしまったらしい。
正面に居た椿紅姉さんの体がレントゲン状になる。
そして俺は一つの変化に気付く。
「赤い点?」
椿紅姉さんの左胸の辺りに赤い点が記され、点滅していたのだ。
俺はその点の正体を把握する為にじっとそれを凝視する。
「どうした? お前さっきからおかしいぞ。……待て、赤い点、それに透視。……くっ!!」
俺の挙動を不思議に思ったのか椿紅姉さんは考え込むような表情を見せ、なにかに気付いたのか咄嗟に胸と股間の辺りを両手で隠した。
俺の頭に嫌な予感が過る。
「お、おまえ、まさか、わ、私の下着を……。まさかそんな卑猥なスキルがあったなんて……。この痴漢っ!」
「ち、ちが、俺は――」
「言い訳するなっ! この痴漢っ!」
弁解をしようとしたが遮られ、距離をとられてしまった。
それに俺の事をお前呼びするっていう事は、やっぱり俺の事覚えてないのか?
「目的は達成してないがしょうがない」
椿紅姉さんは空に人差し指で円を描くと、ステータスウィンドウを表示し、アイテムを取り出した。
緑色の紙ってことは……。
「ちょっと待って! 椿紅ね――」
ビリっ!
「【エントランスゲート】!!」
緑色の紙を破ると椿紅姉さんの体は光に包まれその場から消えてしまった。
あの紙は『帰還の魔法紙』だったようだ。
「はぁ……最悪だ」
俺はため息をつきながら地面に突っ伏した。
憧れの人に痴漢だと疑われたのだから仕方ないだろう。
かきん。かきん。
「なんだよ、こんな時に……」
悲しみでやる気が失せていると10階層の奥から赤い光沢を身に纏ったスライムが金属のぶつかる高い音を立てながらゆっくりと跳ね、近づいてくるのだった。
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