「結局、生きるってなんなんだ」

 

「あぁもうホント、なんの為に生きてるんだろ……」



 地獄の門をくぐった僕は、そう独りごちる。


 まだ午後四時前だと言うのに、空は暗がりを広げつつあって、世界は薄闇に包まれていた。 


 今、僕を生かしているものだって、毎夜彼女に会うため、彼女を独りにしない為くらいで。


 母に助けを求めたところで何も変わらなかった。それどころか、親さえ信用できないという重荷を背負った分だけ、負の感情は膨れ上がってしまったくらいだ。



 始めに、明日葉が自殺未遂した。


 それが原因で警察に事情聴取をされた。


 さらに、それがきっかけでクラスメートから酷いいじめを受けるようになった。

 そのせいで、僕は登校拒否をした。


 そしたら、それが起因となって、母の薄情さを知った。


 そして僕は今、生きる理由を見出そうと必死に藻掻いている。



「……結局、生きるってなんなんだ」 



 ちょうど目の前で信号の青が点滅しだし、赤へと染まる。


 ――ねぇ明日葉、君はどうして死を選んだんだ? いじめが死ぬほど辛かったのか?

 ……今の僕になら、そうかもしれないと考えることができる。

 でも君が、本当にいじめを苦にして自殺っていう逃げ道を選んだかどうかの証拠はない。

 だからこそ思うよ、君は誰かの手によって、自殺未遂に見せかけられた被害者なんじゃないかって。……それも、あんないい奴が自殺なんて選ぶはずがないと僕が思いたいだけかもしれない。 


 それでも、そんなちっぽけな希望的観測でさえ、僕には一筋の光に思えた。



 僕が今、生きている意味。それは明日葉の自殺の真相を解明して、彼を苦しめた奴に謝罪させることだ!


 あぁ、だから僕は生きる。生きて、この困難を乗り越えて…………そしたらきっと、明日葉に会おう。そして、また友達をやり直すんだ。


 でも、なんか……。



「すごく、頭がぼーっとして……なんか、クラクラ?」 



 トンっ。


 後ろから誰かに背を押されたように、膝がカクンと落ちて、身体が前のめりになっていく。


 あ、れ……どうして? 誰が? 



 朧気な視界には、猛スピードで直進してくる真っ青なスポーツカー。僕に気付いた運転手が何度も警笛を鳴らすが、霊が取り憑いたみたいに身体は言うことを聞かない。


 あぁ僕、このまま死んじゃうんだってそう思った。



「このっ、馬鹿野郎がっ!!!」



 綺麗なアルトの、妙に男勝りな言葉遣い。心覚えがある。


 だんだん大きくなっていく警笛を聞きながら、僕は歩道側に引き込まれ、窮地を脱した。



 突然の急展開に頭がついていかず、九死に一生を得たのもあってか、僕の身体は地面にふらふらと落ち沈んでいく。



「全く……警告したばかりだというのに、っておい? しっかりしろ――」



 目を真っ赤に腫らして、僕を覗き込む短髪なのに三つ編みを垂らした女性(?)を確認したのを最後に、僕の意識は暗闇の中に融けていった。



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