天の河の瀬にて、永遠の祈りを。〜コスモ・オペラ〜

久瑠井 塵

第一部 星屑の航跡雲《コントレイル》

 星が普段よりか、近くに感じる。それはなぜか、理由は単純だ。単純に普段、生活しているところより、高度が高いのだ。コックピットは狭い。けれど、全天型仮想現実化デバイス、通称アストロラーペによって、自分の身体と、宇宙との区別はほとんどないと言っていい。彼は、自分の身体一つで、宇宙空間にいるような感覚なはずだ。

「フォックス01、座標:A-5-丑の刻方面において敵機ありとの報告だ。 いつも通り小隕石だろうが、念のため確認頼む。」

「了解した。すぐ向かう。」

「お前、今月の総飛行時間、何時間だ? いや何日分だ?」

「多分、五〇〇時間くらいだ。だから………

。」

「だから飛行中に、考えごとするな、墜ちるぞ。五〇〇時間だろ、じゃあ大体二〇日くらいか。お前一日当たりどんだけ飛んでんだよ。」

「えっと、十三時間弱くらい?」

「何が『えっと十三時間弱くらい?』だよ。確かに、決められてるわけじゃないけどよ。明らかに飛び過ぎだろうが、それは。」

「じゃあ、アルクは何時間くらいなの?」

「俺は、ざっと一〇〇時間くらいだな。俺は一旦母艦マザーシップに戻るから、お前も確認終わったら早く帰って来いよ。」

「分かった。それじゃ。」

 そんな会話を終えて、アルクは母艦の方向へ飛び去って行った。彼は、シエル。このシュトラウス公国空軍における未来のエースパイロットだ。現状の総飛行時間は、三万時間以上。ベテランパイロットであれば平均的、いや若干平均より少ないくらいの記録だが、彼は軍に入ってから五年でこの記録を達成してしまった。これは、歴代最速且つ、最年少の記録。そしてさらにその間の被撃墜数は0、撃墜数も一〇〇と歴代最多の記録を現在も更新し続けている。彼とシミュレータで空戦したパイロットは皆、こう言う、「異次元の動き」、「空間認識能力がどうかしている」、「背中に目でもついてるんじゃないか?」、「俺は人と戦っていたのか?」など、層々たるコメントばかりだ。しかしそんな反応 を受けても彼は、「そうか。」と、淡白な返事しかよこさない。

 ところで、今そんな彼はというと……


「動作系、計器系共に、オールグリーン。機体についても特に問題は確認できない。母艦マザーシップどうぞ。」

『こちら、母艦マザーシップ。レーダーに敵影の様子はない。先ほどの哨戒飛行に続く、任務だがよろしく頼む。今日も星屑の航跡が刻めますように。』

「ありがとう、それじゃ管制よろしく頼む。」

(ちなみに先程の『星屑の航跡を刻めますよう。』というのは某スター何某での『フォースと共になんとやら。』というのと似たような意味を持っています。)

 彼自身に自覚はないのだが、彼は生まれつき自分の操縦するものをまるで、自分の体のように、いえ、自分の身体として扱うことができる非常に高い同調性を持っている。もちろんそれは戦闘機においても同じだった。彼の駆る機体は、他のパイロットの描く軌道とは一線を画していた。だからこその、あのよ うな記録なのだが。でも彼は、それを一切評価しようとはしない。何故なのか、 その問いを投げかける者は現状誰一人としていなかった。

 機体を左へと傾け、目的の座標へと向かう。この座標は母艦の位置によって変わる。母艦の位置を原点として、そこから横軸はアルファベット、縦軸は数字用いて表す宇宙航空法は、宇宙を飛行するうえで画期的な発明であったように思われた。さらにシュトラウス皇国においては示された座標を中心に見立て方位を用いて表すことでより高精度な索敵技術を身につけた。

「今日はやけに宇宙そらが霞んでいる。

普段より不純物が多いのか。少々気をつけないと現在地を見失いそうだ。」

 普通、皇国空軍のパイロットは母艦を電波塔としたGPSじみた機能で現在地を把握し、任務を行う。しかし、これでは母艦がカバーしている範囲だけでしか所在地を確認できない。そこで、天球測定法なる物が生まれた。

内容は単純である。星の並び、輝き方、色から星の種類を判別し、そこから現在地を割り出すと言う方法だ。ぱっと見、とても革新的なようであるが、実用性は皆無であった。理由は簡単だ、無限に等しい数の星を頭に入れることなど不可能で、そこから場所を割り出すなんていうのは、もってのほかである。

 そんな言葉をこれまで散々浴びせられてたのが、彼シエルだが、彼はこう言う、

「なんでみんな覚えられないのかな?すごく便利なのに。」

 覚える覚えないの次元ではないのだ。星の見分けがつかないはずなのだ、普通の人間には。しかし彼は、先ほどの驚異的な同調性を持って、この人間離れした技を可能にする。

「あれは赤っぽいけど、寂しそうだからアルペジオかな?じゃあそろそろ目標地点だよ、白狐。」

 彼の駆る機体のコードネームは『フォックス01』なのだが、なんの因果かこの機体の本名は『白狐びゃっこ』というらしい。彼が初めて機体に乗ったときに、共に自己紹介し合って聞き出したそうだ。

「……て……。」

はたから聞いていた限りでは、ただのノイズだったのだが、彼の耳は彼女の思いをちゃんと聞き逃さなかった。

「白狐、少々目的の座標からは離れるが、少し付き合ってもらっていいか?」

機体が気前の良い返事の代わりに粒子エンジンが轟いた。

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