苔生す狼
藤泉都理
新たな狼の誕生
動物も人も足を踏み入れたことがない辺境の地に、森があった。
多種多様な植物、とりわけ苔が生えている緑豊かなそこには一匹の銀浪が棲んでいた。
活発に獲物を探して走り回るでもなく、日がな一日昼寝をして過ごしていた銀浪は、苔を食べて生きていた。
一年、十年、十五年。
狼の平均寿命を遥かに超えて、百年が経った頃。
銀浪は初めて、森から出ることにした。
衰えなど知らぬ若々しいままの足取りで。
苔を求めて、永いながい旅が始まったのだ。
銀浪は不老不死になっていた。
多種多様な苔だけを食べ続けることで苔の性質を身体が会得したのだ。
身体の表面で光合成を行えるようになったばかりか、水と光がない過酷な環境下では仮死状態になり、環境が整うまで生き永らえる術まで手に入れたのだ。
休止している間、身体が石の刃に覆われて、外敵から身を守っていた。
俊足を以てして移動することもあれば、地殻変動や台風、竜巻、動物や人間の手によって運ばれることもありながら、旅を続けること、百年。
銀浪はようやく辿り着いたのだ。
苔が生えている土地に。
万感の思いで口にした苔はさぞかし極上の味がした。
「まずい」
わけでは、なかった。
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