第6話

学校からの帰り道、俺は公園のベンチに一人腰掛け、呆然と空を見上げていた。

 気温三十五度を超える炎天下でわざわざ熱中症のリスクを背負いながら遊ぶ子供はいるはずがなく、公園はがらんとしていて、もの寂しい雰囲気であった。


「未来……か」


 流れる雲を呆然と眺めながらポツリと呟く。

 わかっている。未来は嫌でも来る。目を逸らすことはできない。

 だから、今だけではなく少しは未来を見据えて道を決め、努力することは大事だ。

 先も周囲も見えない暗黒の世界で真っ直ぐ歩くことは非常に難しい。

 そう思っても怖いものは怖い。見えているからこそ、突然、道が途切れる怖さだってある。

 俺が未来を捨てたあの日の出来事は今でも鮮明に覚えている。

 俺が七歳になった二月三日。両親に連れられて、静岡に旅行に行くことになった。

 父が運転する車に乗って、道路を走っていた。母は助手席に座り、俺は後ろの席でずっとはしゃいでいた。

 緑豊かな公園や水族館に行ったり、美味しい海産物を食べる。楽しみで仕方がなかった。

 きっと最高の誕生日になって、かけがえのない思い出になるものだと思っていた。

 しかし、思い出は俺の心を深く抉るトラウマになる。

 道路を走る中、居眠り運転をしていたバスが反対車線に入り、父の運転する車と正面衝突。

 俺は奇跡的に車体から飛び出され、全身を強く打つだけで済んだ。

 その結果、俺は残酷な光景を目にすることになった。

 思い出したくもない光景だ。

 バスと衝突し、グチャグチャに潰れた車の前部。まるでプレス機で押し潰したようだった。

 両親の体は潰され、最早人の形ではなく、見るに耐えない無残な姿になった。

 その事故で両親、バスの運転手、乗客は全員亡くなり、俺だけが生き残った。

 思い描いていた未来に真っ黒な塗料をかけら、最早ただの汚い紙に変わった。

 それから、俺は親戚の家を引き取られるも元々両親の結婚は両家の祖父母から反対されており、ほぼ駆け落ちに近い形で達成したということで、あまりいい印象はなく、俺自身も望まれない存在ということで邪険に扱われた。

 とは言え、あの事故によって人生を狂わされたのは事実。

 希望や夢が音を立てて崩れ去るあの恐怖は金輪際忘れることはない。

 だから、あんな恐怖を二度と味わない為にも未来に希望や夢を持つことを嫌いに止めた。

 失う恐怖を味わないために、初めから何も持たないことを決意した。

 正しい選択だと思わない。だからと言って、誤った選択だとも思っていない。

 これでいいんだ。生きる為には仕方ないことだ。

 だけど、足りない。心の中にぽっかりと穴が空いたような感じがして、悲しくなってくる。

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