第2話

 突然の攻撃に怪獣は驚いたように顔を上げる。しかし、それ程のダメージではなく、叫び声一つもあげない。

 そして、生物はゆっくりと砲弾が放たれた方向に顔を向ける。

 怪獣の視線の先は崖。崖の上には戦車が硝煙が上がる砲身を怪獣に向けていた。

 戦車と言っても自衛隊が保有する戦車とは全く違っていた。

 全体的に角張ったデザインであり、カラーリングは大変目立つ黒と白と黄色の三色で構成されており、ミリタリー感は薄くSFチックであった。砲身はレールガンのように角張ったものが二本有り、車体の横には左右二つずつミサイルポッドが取り付けられている。


「初弾、命中。徹甲弾では効果見られず。次は粘着榴弾で様子を見る」


 戦車のコックピットで一人の青年がスコープを除きながら、手元のボタンを操作する。車体の後部からガチャンと音がする。貫通力の高い徹甲弾から爆発力の高い粘着榴弾に切り替える。

 狙いを定め、怪獣に向かって砲弾を放つ。

 的が大きく、動きも鈍いこともあって砲弾は簡単に命中する。

 怪獣は小さく「グウ」と呻き声を上げる。だが、粘着榴弾でも怪獣こ外皮には傷一つ付いていない。


「硬いな。やはり、柔らかい目を狙うしかないか。焼夷弾装填。動きを止めた後、再び徹甲弾装填。次は目を狙う」


 山火事が起きることを覚悟の上で焼夷弾を装填する。 


「何!?」


 焼夷弾を撃とうと操縦桿に指をかけたその時。怪獣が口を開けて戦車の方に顔を向け始める。

 何んだと青年は不審に思ったその直後。怪獣の喉の奥が赤く発光する。


「こ、こいつ!? 飛び道具を持ってやがるか!!」


 予想外の攻撃に青年は咄嗟にボタンやレバーで操作をし、ペダルを踏む。

 すると、戦車の下側からジェットが吹き出し、宙に浮く。

 そして、怪獣の口から赤い熱線が吐き出される。レーザー状の熱線は戦車が構えていた崖に直撃する。崖は一瞬で崩壊し、液状化する。


「なんて……威力だ……」


 今までいた場所が跡形もなく消滅した。青年の額から大量の汗が流れる。

 熱線を吐き終えた怪獣は態勢を前のめりになると、額についたドリルで地面を掘り始める。


「逃がすわけには!」


 土を溶かすほどの熱線を持つ怪獣を逃してはいけない。戦車からミサイルを放ち、動きを止めようと試みるも怪獣は完全に逃げの状態に入っており止まらない。

 空中にいる以上、反動の強い砲撃は行えない。仮に行ったたとしてもバランスを崩し、墜落するだけ。また、足場のない空中では狙いを上手く定めることができない。

 指を咥えて眺めることしかできないことに苛立ちが募る。

 そして、怪獣はまんまと地中に潜り、逃亡した。


「クソッ!!」


 己の無力さと不甲斐なさに怒りを覚え、思わず操縦桿を殴る。


『大丈夫か!? 甲太!』


 戦闘終了直後。コックピット内にしわがれた老人の声が流れる。


「……悪い。博士、取り逃がした」


『そうか……。追跡は可能か?』


「いや……難しい」


 すると、博士と言われる人物は「そうか」と呟く。

 怪獣を取り逃がしたことに対して、深い自責の念を抱いている甲太に励ましの一つもかけない。

 いや、かけてはいけないのだ。

 そんな甘い言葉で立ち直る程、甲太は軟弱な男ではない。それどころが超が付くほど真面目で堅物な彼には励ましは寧ろ逆効果になり得る。


「このままあれが人気の無い場所に現れてくれればいい。だが、街中だったら危険だ」


『そうじゃのぉ……』


 博士はまったりとした口調ではあったが、言葉の節々から明確な焦りが見えた。


「なぁ、手はあるのか?」


『……その時はアイツを出す』


「アイツだと!? 俺が言える立場じゃないが、まともな戦力になるのか!? まだ、実戦はおこなってないんじゃないのか?」


 甲太の操縦する戦車もかなりの戦闘能力を持つがそれでも決定打を与えられない。さらなる戦力を投入しなければならない状況だ。

 幸い、彼らにはそれに該当する戦力があった。しかし、それは本当に戦力になるとは限らなかった。


『……わからん。だが、奴らも日に日に成長している。切り札は切らなくては意味がない』


 本当に倒せるかどうかはわからない。だが、出し惜しみ出来る程、彼らには余裕がなかった。


「……そうだな。あいつに賭けるしかないよな……ヴァレッドに」

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