第15話 燃えるゴミ、萌えない魔女 2
「俺か……俺は――魔王の男(になるかもしれない予定)だ!」
こういう胡散臭い相手の時こそ、あえて自分のことを誇大広告並に伝えておく方が多分正しい。
そうじゃないと舐められるし、甘く見て来るはずだからだ。
「ま、魔王~? 人間は冗談が好きだって聞いていたけど、冗談にしては笑えないよ? 言ったことをすぐに取り消さないと痛い目を見ることになるよ~」
「……ほぅ? 痛い目に遭わせるつもりがあって声を上げていたのか?」
「ち、違うよ~!! そうじゃなくてボクは――」
「魔女っ娘のボクッ娘を演じているのは理解出来るが、無理はするな。どうせハッタリをかけてるんだよな? 魔女っ娘でも何でもいいがもう少しマシな嘘を……」
――何やら服が熱い。まるで燃えているような熱さを感じている。
「何をを~えいやぁっ!!」
「――って、ぬわあっ!? ふ、服が燃え、燃えてる!?」
袖やら何やらから小さい炎のようなものがあって、チリチリと焦げ臭い。これは決して幻なんかじゃなく、炎上した魔王城の時と似た感じだ。
「へへーん! どうだっ、参ったか~! あなたってば、生意気なんだからっ! これは偉大なる魔女なりの手加減というものなの。こう見えてわたくしは、魔王さまの配下なんだからっ! ねえ、聞いてる?」
これは結構シャレになってない燃え方だ。
リリアナと名乗った魔女はどうやら半端な力を手にしているらしく、シエルさんのように圧倒的な火力で燃えてくれそうに無い。
しつこそうな性格によく似て、服の燃え方がかなりしつこい感じだ。
あっちで覚えた氷を出して消してやろうかと思ったが、どうやらそんなに甘くないようで、全く氷が出る気配が感じられない。
このままでは火傷を負う、もしくはタチの悪い痕がつきそうで嫌すぎる。
「……き、聞いてるから、早く火を消してくれ……そもそも注意をしに来ただけなのにそれはあんまりすぎる」
「えっ? そんなはずは無いのに……どうしてそんなに燃えているの? わたくしの火力なんかじゃ、いくら弱い人間だとしても消えずに燃え続けるはずなんて無いのに! どうすればいいの~!? えーとえとえとえと……」
ゴミとして認定されているようで、全身が相当熱くなって来た。せっかく人間社会に戻って来てるのに、何でこんな思いをしなければならないのか。
はっきり言ってこの魔女を見ているだけで、メラメラと別の感情が燃え上がって来る。対して、この魔女は俺の琴線に触れない萌えない女だ。
「とっ、とにかく、火を弱くしてくれっ!! 早くっ!」
――とはいうものの、慌てふためいてその辺をウロチョロしているだけで、リリアナという魔女は何の対策も施せそうにない。
まさかのアパート前で燃え尽きるのか。
「……ふぅ。妙な胸騒ぎがするかと思って戻って来てみれば、どうしてここにリリアナがいるのかしら?」
「はわぁっ!? 魔王さまっっ!! あ、あのあのあのあの……」
「リリアナはそのまま何もしないでくださる? ケンセイさんは、わたくしが何とかしますわ。というか、何もしないでちょうだいね?」
「――ひっ……!」
薄れゆきそうな記憶と命、それと炎の中で、聞き覚えのある優し気な声が耳元で囁いている。声とともに、全身が一気に熱冷ましを始めたような感じだ。
「あぁ、ケンセイさま……わたくしが留守をお任せしたばかりにこんなことに……あぁ、何てこと」
「あのあの、ボ、ボクはそんなつもりじゃ……」
「話の続きはお城で聞くわ。完成したからここへ姿を見せたのでしょう?」
「は、はい~」
「いいわ、リリアナに命ずる。ケンセイさまをそっと抱きしめて、お城までお守りすること。わたくしはケンセイさまの為に、寝室の支度をしておきたいの。よろしいかしら? リリアナ……」
何やら辺りの空気がさらにほとばしっている気がしてならない。
全身からは熱さと痛みが引けたはずなのに、目を開けることが出来ないでいる。
シエルさんのおかげであの世に行かずに済んだみたいだが、恐らく重傷には違いない。半端な魔女っ娘に声なんてかけなければ、こんなことにはならなかった。
そう思いつつ、俺の記憶は朝のゴミ出しで閉じられた。
「んしょ、んしょっ……うぅ、重い……でも、魔王さまの男だから頑張らなきゃ……」
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