第14話 燃えるゴミ、萌えない魔女 1
シエルさんと人間社会での共同生活に慣れて来た、ある日のこと。
人間社会に馴染んだシエルさんは別として、現在住んでいるアパートには、明らかに人間じゃない住人がいることに気付いた。
シエルさんは気付いていないのか放置しているのかは定かじゃないが、魔女のような存在がいるような気がしてならない。
その魔女は人間社会にいながら、平気で魔法のようなものをぶっ放している。どう考えても、魔王社会側の者としか思えないのが特徴だ。
「ケンセイさん。わたくし、今日は早番ですのでお先に出ますわね」
「あぁ、うん。頑張ってね」
「もちろんですわ! ここで得たことを活かせるように、日々の精進を……あ! 今日は燃えるごみの日ですわね。すみませんけれど、ケンセイさん」
「捨てておくよ」
「では、行ってまいりますわ!」
魔王城の再建がいつになるのか、ここにいると全く情報が入って来ない。
そのせいか、こっちに来てもうすぐ三か月が経とうとしている。
あっちから誰かが知らせに来てくれればいいのにと思ってしまうが、ロッテさんは来てくれそうにないし、部下の方たちが来ることはあり得ない。
それはともかく、バイトではすっかり早番と遅番に分かれてしまい、早朝シフトのシエルさんとは朝一でしか顔を合わせられなくなった。
同じファミレスバイトではあるが、魔王に関係無く、彼女は優秀なスタッフとしてかなり期待されているようだ。
そのせいでシエルさんは早番、俺は遅番という何とも言えない感じになった。
おかげで朝のゴミ出し当番はすっかり俺になっている。
収集車が来る前に出せばいいだけの話だが、最近変なのがうろうろしていて何とも言えない状況だ。
しかしアパートの前のゴミ捨て場に行くだけなので、とにかく捨てに行く。
「――って、か、火事!? ええぇっ? ゴミが燃えてるとか、シャレにならないんだけど!!」
燃えるゴミ袋を持ってゴミ捨て場に向かおうとしたら、突然目の前に炎が上がっていた。こんなことが出来るのは、本当にやばい奴かあっち側の奴だけだ。
アパートに飛び火されても困るので、恐る恐る現場に近付くことにした。
熱さは確かにあって身の危険を感じるが、それを起こしているのはやはりウワサの魔女のようだ。
ゴミ捨て場からは、ヒステリックな声が聞こえて来る。
「あぁん、もうーーーー!! どうして燃えないのよーーー! えいえいえいっ!」
どう見ても激しい黒煙とともに燃えているように見えるが、何に腹を立てているのだろうか。あまり関わりたくないが、住人としても注意してやらねば。
「ちょっと、そこの魔女っ娘! 朝っぱらから何を騒いでいるんだ?」
騒いでいるよりも炎をどうにかしなければならないが、見た感じ少女のように見えるので、やんわりと注意をしておく。
「ええぇ? ど、どうしてボクが見えるの!?」
「あれ? 男の子だったか? それは失礼し――」
「ボクはこう見えても淑女だぞ! 発育も良好だし、えーとえと……」
自分の胸を触ったり、スカートをたくし上げているがどうしろというのか。
それにどうやら魔女は、いわゆる僕っ娘というやつだったようだ。
彼女が言うように出る所は出ているみたいだが、色気はあまり感じられない。
黒服に黒い帽子、黒髪に黒焦げの杖のようなものが見える。
魔女らしき格好で固めてはいるものの、あまり凄そうに見えないのは何故だろうか。
「女の子だったんなら、謝るよ。それより、いい加減その危なっかしい炎を消してくれないかな? 見ての通り、アパートに住んでいる者としては怖くて仕方が無いんでね」
炎の怖さよりも、魔女っ娘の行動が怖い。
「この炎なら大丈夫! そこの小屋は燃やさないんだよ? 偉いでしょ~! 褒めてくれてもいいんだよ?」
「いや、大丈夫じゃない!! そう思ってるなら今すぐに消して欲しい!」
「あなたって、物凄くわがままじゃない? で、でも~そこまで惚れているなら消してあげるっ!」
いつ誰がこの魔女っ娘に惚れたというのか。
この魔女はどう考えても普通じゃない。もしかすると、魔王の関係者なのでは。
「すぐに消して欲しい。それと、キミはもしかしなくても魔女?」
「よくぞ気付いてくれましたっ! ボクは偉大な魔女のリリアナだよ! キミは?」
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