魔王城の喫茶店~歴代魔王様が俺の嫁候補として修業しています~
遥 かずら
第1話 格安物件探し求めて魔王城
「えええっ!? 辺境って、そんな……そんな場所で商売なんて。本当にそこしか無いんですか?」
「熊さま。すみません、勉強不足で……」
俺の名は、熊
しがないサラリーマンをしていたが、元々の家業が商売人ということもあって、商売を始めろと口うるさく言われ続けて来た。
初めはその気が無かった。
だが開業資金を援助すると言われたことで、「やってやるよ!」とすっかりその気になってしまい、会社を辞めて物件を探していたが――。
俺が住んでいる町はそこそこ都会だが、新参者に優しくなかった。
それもそのはずで、近所づきあいもしたことも無ければ、愛想が特別いいわけでも無い。
家業にしたって、田舎で常連と観光客つかまえて儲けてる、独占的な喫茶店というだけだ。
子供の頃から店を手伝いつつ、高校くらいまでは真面目に勉強していたからこそ調理師免許は取れたが、家業を継ぐ気にはならなかったし田舎でちまちまやるつもりはなかった。
それなのにまさか開業資金だなんて、その気になってしょうがない。
隣町でもいいと思って不動産を歩き回ったが、惨敗だった。
素人、それも知り合いもツテも無い奴に、誰が簡単に場所を提供するというのか。
そんな俺に紹介された物件は、格安だったが"辺境"としか書かれていない場所だった。
地名と住所、それに交通機関に至るまで、何一つ紹介が無い物件だ。
住んでいる町から電車で5時間、駅からバスを使って2時間くらい。
さらにそこから歩きじゃないとたどり着けないとか、一体どこの山奥なんだ。
不動産屋もさすがに、具体的な地名を出すのは炎上の恐れがあるとかで控えたようだが、それにしたって新たな商売人に対して厳しすぎだろう。
紹介された物件はとてつもなく面積が広く、住人が多いと聞いた。
それを聞いて、少なくとも喫茶店を始めるには、そこまでハードルが高くないと感じられた。
喫茶店をやりつつ、住むところも確保出来るという点では、マシだと考えるべきだと思うしかなかった。
「長い間、お世話になりました」
――ということで、会社を辞めると同時に会社の寮も退去することになった。
不動産屋によると、商売に必要な道具や食材は向こうで何でも揃うらしく、せいぜい身の回りの物だけを持つだけに留めた。
そうして長い時間と体力を使って、俺は目的地に何とかたどり着く。
着いた場所は思いの外、寂しい風景では無く、自然豊かな環境の中に商店街のような通りがいくつも見える場所だった。
しかも商店街風な通りには、エリアを区別する為なのか、アーチ状の門がいくつも建っている。
そして突き当りになる場所は、西洋風の巨大な城がいくつもそびえ立っていて、存在感が半端ない。
もしかしたらここは、実は隠れた大富豪か、引退した者たちが暮らす場所ではないかと思えた。
紹介された場所は城の中としか書いておらず、どうやって向かえばいいのか記載されていない。
(どうすんだ、この状況)
誰かに聞こうにも、着いた時間が夜明けだったこともあり、誰も歩いてない状況だ。
そうなると、とりあえず城に行って尋ねるしか無さそうだが――。
「あら? そこにいらっしゃるのは、オーナー様なのではなくて?」
途方に暮れそうになったその時だ。
うす暗い通りの方から、割と派手めなドレスを着た女性が俺に声をかけて来た。
「そうです。すみません、城へ行きたいんですが……どこの城なのか分からなくて」
「まぁ! それは大変でしたわね。それでしたら、わたくしのお城へご案内いたしますわ!」
いくつか見えている城のどこなのか分からないが、声をかけて来た女性の城ということだろうか。
アパートやマンションと違って、城には号室とかも無いだろうし住所も分からないままだ。
しかし声をかけて来たということは、この女性の城で開業出来るということなのかも。
「あの~、お名前を頂いても? 僕は熊 賢盛と言いますが……」
「まぁ!! まぁまぁ! 名前をオーナー様にお預けにならなければいけないのですね? こ、困りましたわ。そ、それは……そうなるとわたくしも覚悟を決めなければ……」
「え? いや、そこまででは……」
目の前の女性は、俺の言葉に何やら動揺と興奮を入り混じらせている。
何か変なことを言っただろうか。
「かしこまりましたわ。ケンセイさま! わたくし、初代を務めさせて頂きました、ルコシエル・フェブラと申しますわ。気兼ねなく、シエル……とお呼びくださいませ!」
――初代って何だろうか。
それよりも、もしかしてここは外国だったりしないよな。
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