俺のチートで無双するには運命力が足りない
千束
第1話 自分という物語
いつか、誰かが言った。
誰もが自分という名の物語の主人公だ。
初めて聞いた時は、そうかもしれないと思った。
けど今は、そうか? と疑問を浮かべざるを得ない。
自分という視点を持ち、時に他者に影響されながらも、自らの歩みで人生を描き続ける。
敷かれたレールに従うのも、無視して自分だけの道を作るのも自由。
取捨選択は己次第。自分だけの物語を作ろう!
なんて実にB級ゲームにありそうなキャッチコピーだ。
果たして漫画やゲームをしている時に、友人キャラややられ役のモブにも人生がある、なんて考えるプレイヤーがいるか。
――彼らが主役の物語を、見たいだなんて思うか。
まあ実際、彼らはフィクションの住人だし、一々心情を気にする必要はない。
問題は、
世の中には様々な
過酷でも最後は報われる英雄譚。様々な恋愛模様を描くラブコメディ。謎が謎を呼ぶサスペンス。恐怖心を呼び起こすホラー。果てしない未来を想像するSF。
どんな作品にも特定の、あるいは複数の主人公がいる。
もし、隣人がそれだったら?
クラスメイトが、幼馴染が、親友が、とある
主人公だった場合――自分は何になる?
誰もが自分という名の物語の主人公。
――ああ、そんな言葉では到底納得出来ない。
だって、それはつまり――
――自分は、誰かの物語の端役でしかない証明だ。
主人公に瞬殺される雑魚を誰もが主人公と思えないように、明確な主人公が隣にいるのに、どうして自分が主人公だと言い切れるのか。
ライバルなら主人公と同格だ。ラスボスであれば主人公と同様に必須の存在になり得る。
それ以外であれば?
モブであればむしろ諦められた。いっそ通りすがりの名無しでいい。
けど、友人なんて半端なポジションにいてしまったら?
物語の中心に近いけど決して中核にはなりえない、主人公に近くて遠い存在。
俺はそれを自覚してしまった。
自覚してしまった以上、取れる選択肢は二つに一つ。
何事もなかったかのように過ごすか、あるいは――
すぐ横で瓦礫が落ち、目を覚ます。
いつの間にか気絶していたようだ。
寝起きに似た意識の靄が思考を鈍らせるも、面を上げて前を見据えた。
今、目の前にいるのは一人の少女だ。
しかし、ただの、と枕を振るわけにはいかない。
彼女は意識を失っていた。手足をだらりと伸ばし、宙に浮いている。
そして、鬼のように恐ろしい半透明の魔人が、彼女の背中と繋がっている。
魔人は暴れている。
声は魔力を伴い物理的な性質を帯び、巨腕は近づく者全てを破壊する。
数分前には古びていても人の出入りが容易だった遺跡だったが、今となっては廃墟も同然。あらゆるものが破壊され、瓦礫が散乱し、遺跡そのものもいつ崩れてもおかしくない有様だ。
まるで暴力の化身。破壊の悪魔。
この場にいる、自分よりも何倍も優れた仲間でさえ、魔人に近づくことさえ出来やしない。
どうにか魔術で応戦しているが、魔人の膨大な魔力の前にかき消される。
己の役目を、思い出した。
こんなことをしている場合ではない。
落ちた瓦礫を支えにし、どうにか立ち上がる。
全身が痛い。苦痛だ。もう一度倒れて、泥のように眠りたい。
――駄目だ。
そんなこと、他の誰でもなく自分が許さない。
目的も、やりたいことも、はっきりしているのに身体の動きが鈍い。
――ああ、クソッたれ。動けってんだコノヤロウ。
亀といい勝負だ。無様で仕方ない。
やはり、自分は主人公じゃないみたいだ。
だからどうした。降りるつもりなど毛頭ない。
自分で選んだ自分の道だ。後悔も挫折も、もう通り過ぎた。
まずは目の前のことに集中する。
あの荒ぶる魔人から、少女を助ける。
それが出来て、ようやく再び自分という物語を進められるのだ。
故に、手を伸ばす。
己が望んだ、未来を掴むために。
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