夏の残響

時瀬青松

夜。


……バイトが終わり、コンビニを出た瞬間、エアコンで冷えた体はぼうっと熱気に包まれた。空からは赤みが抜けて、その色はもうすっかり夜の色だというのに、暑さは去る気配が無い。じんわりと湿っていく手でTシャツの襟を掴み、頬から首へ伝う汗の粒を拭き取る。いつもは真っ直ぐ帰るところを、今日は帰路を外れて夏祭りの行われる商店街に向かう。


 人混みは得意では無いが、夏祭りへは必ず行く。あの夏を、忘れないように。


 いや、楽しんでいないかと言われればそれは嘘になるのだが、『夏祭り』が僕にとっての戒めであることもまた間違いでは無いのだ。


 神社へ続く道に向かって屋台と人の波が賑わう。赤くぼんやり光る提灯が上から垂れ下がって気怠く揺れている。先程買ったラムネは氷水の中に浸かっていたので、体温が2、3度下がったのではと錯覚させるくらい冷たかった。長時間の立ち仕事とエアコンと夏の暑さに、カラカラに乾かされた喉が痺れるくらいに染み渡る。


あいも変わらず人が多い。この街に、こんなにたくさん人がいたのかと思ってしまうほど。僕も流れに逆らわず進んでいるとふと、目の前を横切った少女に目を奪われた。藍色に、白い蝶の浴衣の袖がゆっくり、ゆっくりとスローモーションで靡く。


 苦しい。


 痛い。


 もどかしい。


 そんな懐古の念に揺さぶられて、僕はやり直せないあの夏に押し戻されていく。

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