大切なお守り
あぁ、うるさい。
話声が、椅子を引く音が、全部が耳障りだ。
おもむろに俺はイヤホンを取り出し、携帯へ接続しそのまま机の引き出しにしまう。
はぁ、落ち着く。
この音が少し遠くにある感覚がいい。
耳が遠くなっていしまう?そんな事関係ない。
だって、このイヤホンからは、音が流れてないんだから。
うるさいのが苦手な俺は、学校では授業以外はイヤホンをして生活している。
耳が悪くなると言われても、大きな音が苦手でできれば避けて生きていきたい。
まぁ、生きてく中でそれは無理だし、だったらいかに音を小さくするかって考えた結果がこれだった。
この性格のせいで周りからは無口でクール、怖いと思われがちだし、同じクラスに好きな人がいるが話しかけられない…。
「ねぇねぇ、いつもイヤホンしてるけど、何聴いてるの?」
ある日、その彼女から話しかけてきた。
無音でイヤホンをつけていることがばれないように、携帯で曲を選びとっさにかける。
「最近気になってるやつ。」
「あー!!それ私も好きなアーティスト!!まさか同じクラスで出会えるとは思ってなかった〜!!」
「俺も。」
別に俺は対して好きじゃないんだけど…、彼女が好きだというならちゃんと聴いてみるか。
それから放課後は毎日のように彼女からこの曲を聴いてほしいと言われ、一緒に聴くようになった。
「今日はこの曲!知ってた??」
「いや、俺有名なやつしか聴いてなかったからこれは知らない。」
「ふふん、これね、失恋ソングに聴こえるけど、実は恋が実る歌詞なんだよ〜!」
「ネタバレじゃん。」
「はっ!ごめん…。」
「いいよ、聴いて確かめるから。」
イヤホンを外していてもうるさいと感じない彼女の声が心地いい。
この声ならずっと聞いていられるし、イヤホンもいらない。
付き合えたら…そう思ったが、イヤホンがないと普段の生活もままならない俺には遠い夢のまた夢だな。
試しにイヤホンを外して生活してみたが、やっぱりだめだった。
頭が痛い。
めまいがする。
彼女と普通に生活するイメージが出来ないのがなんとなく悔しい。
「あのね、私あなたの事が好きなの。」
何回目かの放課後、彼女から告白された。
嬉しかったが、断った。
「どこがダメ?」
「ダメじゃないんだ。俺に問題がある。」
「それは、聞いてもいい事?」
「答えられない。すまない。」
「違ったらごめんね、もしかして、イヤホンずっとつけてる事と関係ある?」
「なんで…。」
「もしかして、音が苦手なのかなって思って。」
あぁ、バレてたんだ。
じゃあアーティストが好きじゃないこともバレてるのかな。
終わった。
「そうだ。弟が苦手でイヤホンをずっとつけてる。曲なんて最初から聴いてない。」
「うん。それでもいいよ。」
「な、なんで…。」
「だって、好きなことに理由なんて必要ないでしょ?私はあなたの事が好き。だから付き合って欲しいの。」
「でもイヤホン付けてないと生活が――」
「うん。だからこれあげる。」
彼女の手に乗っていたのはワイヤレスイヤホンのような物だった。
ようなものというのは、ハードケースに入っていて中身が分からないから。あと、手のひらサイズだから、ワイヤレスイヤホンかなと。
「ワイヤレスイヤホン?」
「違う。イヤホン型の耳栓だよ。」
「耳栓?」
「そう。完全に音が聞こえなくなるわけじゃないけど、コード付きのイヤホンよりちょっとかっこいいワイヤレスイヤホン型の方が気にならないかなって思って。」
「もらっていいのか…?」
「もちろん。」
「…俺、大切にする。耳栓ももちろんだけど、お前のこともずっと大切にする。」
「え、それって…」
「これからよろしくな。」
「うん。うん!」
この時俺は、こんな自分を好きと言ってくれた彼女を一生大切にすると誓った。
結婚して数年、子供にも恵まれて大分騒がしいのも慣れてきた。
最近では耳栓を付けなくても生活できるようになってきた。
これも全て彼女のおかげ。
彼女からのプレゼントは、出かける時はポケットに入れてお守りがわりにしている。
―END―
最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回のお題は、『放課後、ポケット、耳栓』でした!
ちょっと?せんしてぃぶ?な内容にしてしまいました。
デリケートの方が合ってる?
わかんないけど、すみません…。
少しでもいいなと思ったら♡やいいね★お願いします( *¯ ꒳¯*)
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