剣と魔法

ときには

異世界に逃げてもいいんだよと

わたしに許してくれたひと

あなたには

この現実も

居心地のいい場所と

なったのですね

からかいの言葉が

胸をえぐる痛みは

魔物の鋭い爪で切り裂かれた傷に

ひとしいのだと

言ってくれた

悪意を持った笑いに取り囲まれている恐怖は

たったひとり

巨大な竜に立ち向かうときと

少しも変わらないんだと

認めてくれた


ココデハナイ・ドコカ

という王国にはじめて

名前と歴史をくれたひと

やがて

あなたが生み出した

二つの月が守る世界よりも

この世界を愛するようになったひと

歌姫の少女を

はるかな空の下に

旅立たせたまま

あなたは

水晶の扉を開けて

精霊のすむ世界を

出ていってしまった

魔法によらない奇跡が起こる

いまのあなたの物語は好きだ けれど

この世界から連れ出してほしくて

わたしが必死に唱えた

魔神を呼ぶ呪文を

あなたの唇はもう

覚えていないのだろう

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