22. 捧げ物
「遅くなったけどしうへのプレゼント。これが
「いいのに」
やたらと手に紙袋をぶら下げているなと会った時から思っていたが、全てプレゼントだったのとは。嬉しさを顔に出さぬよう必死に表情筋を保つも
「嬉しいなら隠さなくていいのに」
「うるさい」
「素直じゃないねえ。あと、これが大本命」
花園神社の石階段に行儀悪く並んで座る二人を不審そうに視線だけ投げ、何人かが通り過ぎる。
そんな視線など気にも留めていないのか、渡された書類の束と轟を交互にしうが見ると「読んで」とばかりに、轟がページをめくるジェスチャーをする。
『――二年前に起きた八王子での女子高生焼身自殺には唯一の第三者、
「もう少し読み進めてみ?」
轟の言葉にこくんと頷くとざっと目を通し、パラパラとページをめくってゆく。
『――五鬼篝は事件から四ヶ月後行方をくらませ、親族から行方不明届けが出るも第一審で姿を現す。その際の彼女の姿は、五鬼の両親も含めあの場にいた者たちを騒然とさせるものだった。まるで、神への捧げ物のよう一眼一足で現れたのだから。彼女の母はその場で倒れ緊急搬送、裁判は二時間遅れで始めるという異例のスタートだった』
「はっ、え? 一眼一足?」
「一眼一足」
「冗談キツイって。ていうか、ただの高校生が何でそんなこと知ってんの」
「それは読めばわかるかな?」
訝しげにペラッと数ページめくってゆくと、あるページでしうの目が留まる。
『事件後、五鬼篝と接触したとされる
「
「いったい何て言ってそそのかしたんだろうね?」
「さあね」
考えこむように、しうは上唇を噛み器用に「チッチッチッチ」と舌で規則正しい音を出す。
「八王子でさ」
「うん」
考えをまとめるよう探り探り言葉を選び話すしうの声に、轟は静かに耳を傾ける。
「鬼を見たの、そう鬼を。伝承通りの……鬼。
「おじさん、別に怪奇現象とか信じてないけどさ」
「知ってる」
「そんなおじさんの一意見だから適度に流してくれや。……五鬼の目と足が何かの儀式で使われた可能性がある場合の過程として、そのしうが見たっていう鬼は、五鬼篝が呼んだんじゃないかね?」
「五鬼篝が代償を払って鬼を呼んだ? 何のために……あっ」
「神に頼った、藁にも縋る思いで。もしかしたら、鬼にも悪魔にも縋ったかもしれんね」
「神……御神千里か」
そうだと言わんばかりに頷く轟にげんなりとしたしうの視線が突き刺さる。
「五鬼篝に会ってみるかあー」
同じ姿勢で長時間座っていたからか、身体がこわばったらしいしうはうーんと大きく伸びをする。
「えー、あの、しうさん」
「はい」
「五鬼は第一審以来、また行方不明なんだよね」
「はああ?」
これこそ鬼じゃないのか……と思うほど険しく、眉を寄せ轟の一言に怒るしうにまあまあと宥めるよう轟は声をかける。
「手詰まりじゃん」
「資料だけじゃ根本はわからないし。五神はどこ行っちゃったんだろうねえ、親友を目の前で亡くして身体の一部も失くして」
「…………御神千里が何をしたいのか考えれば、いや、うーん」
「千里が関わっているなら……しう、最終的な目的なキミだよ。前回と同じ」
「やっぱり?」
「餌を少しづつまいて、事象を気づかれないよう近づける。……しうが最近拾ったわんこも千里の仕業かも」
「まさか」
「言い切れないだろ?」
「最悪だよ」
「最悪だねえ」
よいしょと年寄りくさい掛け声と共に立ち上がる轟を目で追うと手持ちがいっぱいになったしうも、追いかけるよう立ち上がる。
「まあ、おじさんの方でももう少し五神について調べてみるよ」
「ありがとう」
「なあに改まって、いいって。おじさんはこれくらいしかしてやれないから」
伊勢丹で撫でた時とは正反対にそっとしうのピンクベージュの髪を優しく撫でる轟の大きな手からは、計り知れないほどの愛情が伝わる。
「それと星蓮教……いや、御神千里には気をつけるんだよ」
「わかってる」
照れ臭そうな表情を浮かべるしうを轟は愛娘を見つめるよう柔らかな瞳で映す。
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