8. 酒豪
「あ」
「え?」
「この人のニュースまだやってんだなって」
精算終了後、スタッフの一人である
「てか、今日誰もいないの?」
「いやあ、いるっちゃいるけど……まあ偶には飲んでもね?」
「年末年始だって飲んでない?」
「飲んでる」
「ウケる」
「ウケません。で、この人はまゆりちゃんの知り合い?」
「まさか〜、ほら180分の本指の人」
「あー、裁判官のなんだっけ。吉田さん!」
「偽名だろうけどねえ、まあその人と同職だったらしいよ」
「ふーん、そんなすごい人がねえ」
「ねえ〜?」
ぐっぐっぐと喉を鳴らしながら美味しそうにビールを煽るしうに「良いねえ〜」と拍手を送る。
テレビから流れるアナウンサーの声に耳を傾ければ、どうやら惨い状態で発見され身元が判明するのに随分と時間がかかり、ようやくわかったとのこと。
「腐ってたのかな」
「えー、まゆりちゃん気持ち悪こと言わないでよ」
「だって、身元がわかるのに時間かかるってそういうことでしょ?」
食欲失せる〜と文句を零しつつ手元のパソコンでカチカチと会田が事件の記事を探し出す。どれどれと画面に近づけば、二人揃い記事を読む。
「一年も前から行方不明だったんだ」
「見つかって良かったんだか生きて戻ってと思うか。まあでも悪いことすると天罰下るって本当なんだなあ」
「八王子のこと?」
「まゆりちゃんも知ってるってことはマジで凶悪じゃん」
「人をものを知らない馬鹿みたいに言わないでよ」
「ごめんごめん。……いやけど、あの裁判の判決下した人とはねえ」
「ねえ〜」
二本目の缶ビールを事務所に設置される冷蔵庫から取り出せばプルタブを開け、水のごとく喉の流し込む。
「俺の妹も亡くなった子と同い年だったから、ちょっと考えさせられたよね」
「へえー、会田さん妹いるんだ」
「こう見えて長男よ」
「ウケる」
「どこもウケないでしょ。焼身自殺かあ、熱くて苦しかっただろうね」
「どんな理由であれ死んだ人に同情するのはやめた方が良いよ」
「え、なんで?」
「同情するから」
「それ答えになってないよ」
「人間とはそう言うもんだ」
なにを言っているんだとばかりにしうに視線を投げる会田に、ハハッと笑って見せれば食べかけのポテトチップスへ手を伸ばす。
「そう言えば今日は明るいうちに帰らなくて良かったの?」
「あーね、まあ偶には良いかなって」
「なるほど。まだ記事見る?」
「面白そうなの開いてよ、暇つぶし暇つぶし」
「嫌な暇つぶしだな」
そう言いつつもカタカタとパソコンをいじる会田に「お人好し」と嫌味なく呟くしうに笑って返せば、三本目の缶ビールを冷蔵庫から取り出す。
そして、遅番出勤の店長が顔を出す頃には冷蔵庫の中になった軽く十本はあったはずの500ml缶は全て消えているのだった。
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