第142話 vsヴィム・アーベル

 ヴィムの前に、チカゲとザックが立つ。

チカゲは、ヴィムからかなり距離を取っているように感じる。

これも作戦なのだろうか。


「それでは、始め!」


 ハナの合図によって模擬戦が開始される。


 最初にチカゲが弓を構える。

弓から、矢が次々と放たれる。

合計四本の矢が一気に飛んできた。


 弓使いの為、チカゲはここまで距離を取っていたのだと理解する。


「弓使いと戦士のペアか」


 ザックの方はガントレットを右手につけていた。


 ヴィムは矢が飛んできているこの状況でも全く動じる様子はない。


「よっと」


 飛んできた四本の矢を素手て掴むと、後ろになげ捨てた。


「マジかよ……」


 その姿に驚きながらも、ザックはガントレットをはめた拳をヴィムに打ち込んでくる。

しかし、ヴィムはそのばから一歩も動かない。


「もらったぁ!!」


 ヴィムの脇腹にザックの拳が叩き込まれた。

かなりの力で殴ったので、ザックには確かな感触があった。


「よっしゃ! 一本だ!」

「何を喜んでいるんだ?」


 ヴィムは平然とした顔で、ローブに付いた埃をはらっていた。


「そんな、確かに入ったはずなのに……」

「まあ、いい線は行っているよ」


 ザックは一度ヴィムとの間合いを取る。

そして、もう一度殴り込んできた。


「ほう、そんなもんか?」

「す、素手で!?」


 ヴィムはザックのガントレットをはめた拳を素手で受け止めていた。

その時、再び矢が飛んで来る。


 それを後ろに跳躍することで躱す。

地面に突き刺さった矢をヴィムは蹴り飛ばした。


「いい狙いをしているな」


 チカゲはヴィムの頭を正確に狙ってきているのが伝わる。


「魔術師なのに、魔法を一回も使わないなんて……」


 確かに、ヴィムはここまで魔法を一回も使っていない。

攻撃魔法はもちろん、防御系統の魔法も使用してない。


 正真正銘、自身の鍛えた肉体のみで戦っている。


「諦めてたまるかよ!!」


 ザックはヴィムとの間合いを一気に詰める。

そして、ヴィムの胸に向かって拳を叩き込んでくる。


「いい動きだ」


 ヴィムは手のひらサイズの空気防壁を展開して、その拳を防ぐ。


「俺たちの攻撃が全く通じない……」


 たくさん攻撃をしていても、ヴィムは全くダメージを食らっていない。

ザックの方は、すでに肩で息をしている。


 そして、チカゲは最後の一本の矢を集中して、ヴィムに放った。


「流石に狙いは正確だな」


 ヴィムはそれを掴むと放り投げた。


「負けました……」

「完敗ですね……」


 二人は肩を落とした。


「そこまで!」


 ハナの合図で模擬戦が終了した。


「お疲れ様」


 ヴィムは二人に回復魔法をかけた。


「じゃあ、みんなの戦闘スタイルの特徴を説明しようか」


 Cグループの全員を前にしてヴィムは言った。

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