第131話 最終階層

 そして、ヴィムたちは九階層へと足を踏み入れた。

九階層はただ、広い空間があるだけだった。

 

 索敵魔法にも何も引っかからないし、遮蔽も何も無い。

マナは僅かに感じるが、ゼロに等しい。


 次の十階層を形成するのに、九階層のマナも使ってしまっているのだろう。


「次が最後かもな」

「我もそう思うぞ」


 おそらく、次の十階層がモール大迷宮の最終層だ。

ここまで来るのに十四時間といった所だろうか。


 不思議と疲れていない。

ポーションと身体強化魔法のおかげだろう。


「みんなは大丈夫か?」

「はい、大丈夫です!」

「ヴィムさんのポーションのおかげです」

「我は精霊だからな、疲れていないぞ」


 ぶっ通しで迷宮攻略をしたが、その表情は明るかった。


「じゃあ、十階層へ行きますか」


 ヴィムたちは階段を降りて、十階層へと降り立った。

そこには、まるで人工的に作られたと思われる大きな扉があった。


「魔力を流せってか」

  

 ヴィムはその扉に触れると、自身の魔力を流した。

すると、扉が音を立てることなく、ゆっくりと開いた。

そして、ヴィムたちが扉の中に入ると、自然に扉は閉まった。


「なるほど。もう、後戻りはできないってことか」

「上等だな」

「ああ、そうだな」


 ヴィムとディアナは二人で笑みを浮かべた。

おそらく、迷宮の守護者を倒さない限り、ここから出られないという寸法になっているのだろう。

高位な迷宮ではたまにある仕掛けだ。


「お二人は、この状況でも笑ってられるんですね」


 ハナが引き攣った笑みを浮かべていた。


「本気で戦える相手なんて久々だからな」

「我もマスターのおかげでせっかく、この体になれたんだ。楽しませてくれるくらいの相手じゃないとな」


 最終フロアの、守護者感知エリアへ入ると、大きな魔法陣が二つ地面に現れた。


「二つだと……」


 魔法陣が二つあるということは、守護者が二体いるということになる。

これまでいくつも迷宮を踏破してきたが、この状況は初めてだった。


「マスター、面白くなってきたな」

「だな」


 この状況でもなお、楽しんでいる人間がここには二人いた。


「ほう、そうきたか」


 一体はヴィムと同じくらいの身長で筋肉隆々とした肌まで真っ黒な男、悪魔だ。

頭には二本赤いツノが生えており、死神が持つような大きな鎌を持っている。

あれで切られたら相当やばそうだ。


 そして、もう一体はベイウルフ。

魔獣の中でもランクが上の神獣と呼ばれる魔力生命体である。

爪と牙が特に鋭いので注意が必要だ。


「悪魔とベイウルフか。これはすごいな」


 災害級と呼ばれる魔獣と悪魔が同時に出現したのだ。

一般の冒険者なら、待っているのは“死“の一択であろう。


 ただ、ここにいるのはSランク冒険者二人にAランク冒険者一人に、光の精霊王である。

運が悪いのはどちらになるのか、この後分からせられることになる。

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