第126話 迷宮五階層

 五階層に入ると、そこには再びマナが充満している空間が広がっていた。


「さて、行きますか」


 ヴィムたちは慎重に進んで行く。


「魔獣、少ないですね」


 前を歩いているハナが口にした。


「そうだな。でも、一体一体が強力な場合が多いから油断するなよ」


 魔獣の数が少ないということは、それだけ魔獣単体が強いことを示している。

マナをその魔獣一体で多く消費しているた為、数が作れないのである。

 

 その逆もあり、一体はそれほど強くないが、大群になって攻めてくる場合もあるので、迷宮では臨機応変に対応しなければならない。


 ヴィムは索敵魔法を展開していく。


「三体か……」


 この階層には三体の魔力生命体の反応があった。

それも、かなり強い魔力反応なので、できるだけ関わりたくはない。


 魔獣の位置はあらかじめ分かるという、有利な状況にあるので、ヴィムはルートを指示して魔獣とできるだけ遭遇しないようにする。


「ヴィムさん、あれは倒さないと次に進めそうにないですね」


 ミサは、進行方向を指差して言った。

そこには、次の階段を塞ぐようにして魔獣がその場を離れない。

理性を持たない魔獣が、ここまでじっと動かないのは珍しいことでもある。


「まさか、一般階層でこの魔獣を見る日が来るとはな……」


 真っ黒な羽をバサっと広げる、大型の鳥の魔獣がそこに居る。

下級の迷宮なら、エリア守護者として居ることもある魔獣だ。


 それが、何もない一般階層に現れるということが、この迷宮の難易度を示して居る。


「やるしかないな。俺がヤツの動きを止める」

「了解です!」


《氷槍》


 氷の矢が真っ黒な鳥の魔獣に向かって飛んで行く。

羽の部分に命中した。


 こいつの厄介の所は、空を飛ぶというところにある。

しかし、その羽を使えなくしてしまえば、こちらに分がある。


「今だ!」

「はい!!」


 ヴィムの合図で、右と左に分かれたミサとハナの剣撃が魔獣を襲う。

それを援護するようにディアナの精霊術で生み出された、光の槍が魔獣の胸の位置に入る。


 ワイバーンほどの硬さは鳥型魔獣にはない。

一瞬で剣が突き刺さり、血飛沫が飛び散る。


 ミサとハナが剣を抜くと、鳥型魔獣はその場に倒れ込んだ。

そして、再び起き上がるということは無かった。


「ナイス連携!」

「ヴィムさんとディアナさんが隙を作ってくれたおかげです」

「あれが無かったら、こうはいってませんでしたよ」

「ありがとうな」


 四人で戦うのはまだ数回しかないが、連携も十分に取れて居る。

後衛で魔法による遠距離攻撃、前衛を剣による近接攻撃。

そのバランスが上手く取れている気がする。


「こいつの核だけ取って、次の階層にいくか」


 魔獣を倒したことによって、階段を通ることができる。

ヴィムの感覚としては、ここでやっと半分と言ったところだ。

ここまで来るのに約三時間という驚異的ペースで来ているが、ここからはもっと難敵が出現することだろう。


 核を取り出した魔獣の亡骸を道の端に放り投げて、次の階層へと向かう。

階段を降りた六階層にはマナが存在しなかった。


「こりゃ、次の階にはまたエリア守護者がいる見たいだな」

「今度はレッドワイアバーンより強いんですよね?」


 ハナがヴィムに尋ねる。


「まあ、そうだろうな」


 基本的に、迷宮というのは階層が深くなるにつれて魔獣の強さも増していく。

ということは、レッドワイバーン以上の魔獣がエリア守護者として君臨しているということになる。


「これ、飲んでおいて」


 ヴィムはハナとミサにポーションの瓶を渡した。


「これは、回復ポーションですか?」

「いや、それは俺のオリジナルポーション。身体強化とスタミナ回復を調合している」


 ポーションは傷を治すものとして多く用いられている。

しかし、それ以外にもポーショの種類は多岐に渡る。


「そんなことも出来るんですね……」

「ヴィムさんは何でもできちゃうんですね……」


 二人は感心した様子で、ヴィムからポーションの瓶を受け取る。


「マスター、我にはないのか?」

「ディアナはこれが無くても自分で精霊術が使えるだろ?」

「なんか、理不尽な気がするんじゃが」


 ディアナの精霊術は流石のものである。

ヴィムの魔法とも肩を並べるほどであろう。

それも、ヴィムが見るにまだ力の半分ほども出していないと感じる。

本気の力を出したら、それこそこの世界がひっくり返ってしまうだろう。


「ヴィムさん、これ凄いです……!」

「本当に、力が体の内側から浮き上がってくるような感じです」

「ちゃんと効果が出てる証拠だな」


 二人は前衛として走っているため、ヴィムやディアナより体力を消費しているはずだ。

その疲労が残ったままだと、一瞬の判断ができないことがある。

この迷宮では、その判断ミスが生死に直結する。


 そして、ヴィムも自身に身体強化の魔法をかけた。


「じゃあ、行こうか」

「「はい!」」


 ヴィムたちは慎重に階段を降りた。

階段を降りた先には、ただの広間のような作りになっている。


 人口的に作られたのかと思う、彫刻のが壁や柱に入っている。

ゆっくり歩き、中央付近まで行くとエリア守護者の検知範囲に入った。

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