第106話 消滅した街

 そうと決まれば、早速行動に移す。

まずは、ハナが住んでいたという獣人の街はどこなのかという問題である。


 獣人の街といっても、レオリア王国だけでも複数ある。


「レオリア王国の国内で間違いないのか?」

「はい、それは間違いないと思います。父が言っていたのを覚えています」

「じゃあ、ジェームズなら何か知っているかもな」


 ジェームズは長年王宮に仕えた優秀な執事だ。

その長年の執事人生で培ったネットワークは、王国の諜報機関と普通に勝負できるほどである。


 ヴィムはジェームズを呼ぶと、ジェームズを交えて協議を進める。


「レオリアの獣人の街ですか……」


 ジェームズは顎に手を置いて考える素振りを見せる。


「その組織が襲撃したというのは、何年前の話ですか?」

「四年前くらいだったと思います」

「なるほど、それなら少し心当たりがあります。少々お待ちください」


 そう言って、ジェームズはその場を離れると、レオリア王国全体が載っている地図を持って戻ってきた。


「確か、この辺りに獣人の街がありました。しかし、何らかの影響で街全体が消滅してしまったとか」


 ジェームズが差したのはレオリア王国の北の辺境である。


 獣人の街というのは、基本的に国が干渉できない。

一種の治外法権のようなものになっている。

そのため、情報が正確に入ってこないのである。


「その、街が消滅した時期とハナ様の街が襲撃された時期が重なります。偶然、にしては出来すぎているかと」

「さすがだな」

「いえ、旦那様のお役に立てましたら光栄でございます」


 やはり、ジェームズに聞いたのは正解だった。

この少ない情報から、一番可能性が高いものを進言してくれる。


「とりあえず、ここにあったっていう獣人の街の様子を見に行ってみるか」

「いいんですか?」

「ああ、今がどういう状況になっているのか気になるしな」


 ジェームズの情報が今は一番可能性が高いが、確実に正解という保証があるわけではない。


「でも、マスターよ、ここまで行くのは時間かかるぞ」


 場所は北の辺境である。

馬車で飛ばしても二週間近くはかかってしまうだろう。


「そうだな、この辺はまだ行ったことがないしな」

「じゃあ、あの空間魔法は使えないってことですか?」


 ハナは少し残念そうな表情を浮かべる。


「でも、まだ手はあるよ。空を飛べばいいんだ」


 空を飛んでいけば一日あれば十分だろう。


「でも、私たちはヴィムさんやディアナさんみたいに魔法は使えませんよ?」

「分かってるよ。だから、とっておきの方法があるんだ」


 ヴィムはニヤッと笑った。


「まあ、これは見てもらった方が早いかな。庭に行こう」


 不思議そうな表情を浮かべる、ハナたちを連れてヴィムは屋敷の庭へと出るのであった。

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