第94話 通信魔法

「ヴィムさん、その方は?」


 ハナが恐る恐る聞いてくる。


「光の精霊王らしい」

「ひ、光の精霊王!?」


 ハナとミサが同時に声を上げる。


「ディアナの事見えるんだな」


 精霊という存在は普通、一般人からは見えないものである。


「我は最上級の精霊だからな」

「なるほどな」


 上級精霊になると、人型になりある程度の魔力や力を持つものには姿が見えるらしい。


「まさか、契約しちゃったんですか?」

「うん、そうだよ。精霊と契約すれば使える技も増えるだろうし」

「そうですね。もう、驚くの辞めます」


 ミサが呆れたように口にする。


「じゃあ、俺はやりたいことがあるから、戻るよー」

「マスター、我も行くぞ」


 そうやら、契約した精霊というのはできるだけ主人の元から離れたくないらしい。


「ああ、かまわんぞ」


 屋敷の中に戻ると、ヴィムは何事も無かったかのように書斎に籠る。

そこから、マジックバッグの中に手を突っ込んで青い魔石を何個か取り出す。


「ほう、随分と上等な魔石だな」


 ディアナが後ろから魔石を覗き込んで言った。


「まあな。俺が厳選して買って来た魔石だからな」


 ヴィムが今から作ろうとしているのは、通信石を小型化したものだ。

通信石のシステムはわかっているから、それを後は小型化すればいいのだが、それには上等な通信魔石が必要だったのである。


「マスターは本当に何でも出来てしまうのだな」

「まあ、これもギリギリ魔術の領域だからねぇ」


 昼過ぎから作業を始めて、気づけば窓の外は茜色に染まり始めている。

食事も忘れて作業をしていたらしい。


「これで、ほぼ完成だな。後はこれに嵌めればと」


 ヴィムは持ち運びしやすいように、イアリング型、ネックレス型、ブレスレット型の三種類を用意した。


「三つだけでいいのか?」

「うん、とりあえずはね。だって、俺とディアナは念話できるでしょ」

「うむ、確かにそうだな」


 契約した精霊とは、たとえ離れた所にいても意思疎通が可能なのだ。

なので今日作ったものは、ハナとミサとヴィム自身の分であった。

余裕ができたら国王陛下や使用人の分も作ろうと思っている。


 動作確認をした所で、そろそろ夕食の時間になる。

ヴィムは完成した通信石を持ってリビングへと向かう。


「みんな、ちょっといいか?」


 ハナとミサは既にリビングのソファーで談笑していたので、声を掛ける。


「はい、大丈夫ですよ」


 ヴィムの声に二人が反応する。


「実は、こんなのを作ってみたんだ」

「これは、通信魔石ですか?」


 テーブルに置かれたものを見てミサが言った。


「その通りだよ。正確には通信魔石を小型化して運用可能にしたものだよ」

「そんなことが、できるんですか……」

「うん、理論上は可能だったから作ってみた。ハナはネックレス型、ミサはイヤリング型にしてみたんだ」


 ハナはいつもネックレスを付けているし、ミサは耳にいつもイヤリングをしていた。

それぞれの趣味に合うように工夫してみたのである。


「私たちの事、ちゃんとみていてくれたんですね」

「当たり前だろ。いつも一緒にいるんだから」


 ハナは少し顔を赤らめていた。


「付けてみてくれ。俺からのプレゼントだ」

「ありがとうございます」


 そう言うと、ミサは今つけているイヤリングを外して新しく魔法石のイヤリングをつける。

ハナも同様にしてネックレスを付けた。

そして、ヴィムも左腕にブレスレット型の魔法石をつける。


「使い方は、これに軽く魔力を流すイメージ。今はこの三人にしか繋がらないようになっているから」


 魔力を流すと、魔石が青く光始める。


「あーあーあー」

「すごい、ヴィムさんの声が聞こえます!!」

「本当だ……」


 ハナとミサは感動している。


「これがあれば色々便利だと思ったんだ。これから活用していこう」

「はい! 大切にします」


 そう言って、二人は満足げな表情を浮かべていた。

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