第79話 同盟へ向けて

 帰り道は特に何も異変は起こらなかった。

王都に帰ってからというもの、しばらくは平和な日々を送っていた。


 迷宮調査の報酬入り、生活にはだいぶ余裕がある。

そもそも、Sランクの冒険者に入るほどの依頼が毎日のようにあったらそれはそれで問題なのである。


「旦那様、王宮より書簡が届いております」

「ありがとう」


 俺はジェームズから書簡を受け取ると、綺麗に封を開ける。

その内容としては近いうちに王宮へと足を運んでほしいと言うものであった。


「ジェームズ、明日の午後に王宮に行くと先方に伝えといてくれる?」

「かしこまりました。お伝え致します」


 そして、翌日に俺はハナとミサを連れて王宮へと向かっていた。


 王宮の前に到着すると、門番を務める騎士が俺の顔を見るなり敬礼して中に通してくれる。


「ありがとう」


 軽く会釈をして王宮の中に入る。


「ヴィム様、お待ちしておりました。陛下がお待ちになられています」


 王宮の従者によって俺たちは応接間に通される。


「いつも急にすまんな。まあ、座ってくれ」


 陛下に促されて俺たちは対面の席に腰を下ろす。


「いえ、お気になさらず。それだけ重要なことなのでしょう」


 書簡にも詳しい内容は記載されていなかった。

それは、書簡では伝えられないほどの重要事項だとも解釈することができる。


「さすがは察しがいいな」


 そう言うと陛下はソファーに座り直す。


「迷宮調査から帰って来たばかりというのに申し訳ないんだが、また君に頼みたいことがあってだな」

「伺いましょう」


 陛下はいつになく真剣な表情を浮かべている。


「我が国が隣のグリフィント皇国と同盟を結ぼうとしている話は耳に入っているだろうか?」

「ええ、先日うちに送られてきた資料で読みました」

「グリンフィント皇国とは友好な関係を築いているが、正式に同盟を結んでいる訳ではない。この機会に正式な同盟を結ぼうと動き出している」


 レオリアは完全実力主義の国という特性から軍事においては近隣諸国に比べたら頭一つ抜いていると感じる。

一方、グリフィントは商業においてはトップクラスだろう。

その二つの国が同盟を結ぶということは、お互いにとっての国益に繋がることであろう。


「その事自体には賛成です。それで、私に頼みというのは何でしょうか?」

「ああ、それはだな。同盟を結ぶにはどちらかの王都に出向くのが一般的だ。そこで、君達にグリフィント皇国の王都に大使として出向いて欲しい」

「確認なんですが、護衛ではなく大使という名目で出向くんですか?」

「ああ、そうだ」


 俺はてっきり護衛として同行するものだと思っていた。


「ヴィムは空間魔法を使えるか?」

「ええ、それは使えますけど」


 ヴィムは一度見たり聞いたりした魔法は大体使うことができる。


「それは、空間と空間を繋ぐことは可能なのか?」

「理論上は可能です。しかし、やったことはありません」

「なるほどな。もし、それが可能であるのならばグリフィントの皇都とレオリアの王都をつないで欲しいと思ったのだ」


 確かに、一国の王が国境を越えるほどの長距離移動は危険が常について回る。

そこを空間魔法で繋いでしまえば危険は最小限に抑えられるということだろう。


「一度この話を持ち帰ってもよろしいでしょうか? 空間魔法の実験をしたいと思います」

「わかった。どのくらいかかりそうだ?」

「3日ほど頂けたらと」

「うむ。待とうじゃないか。よろしく頼んだぞ」


 俺はこの話は空間魔法の実験をして、空間と空間を繋ぐことが可能になったら正式に受けると決めたのであった。

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