第55話 皇帝の苦悩③
この世界にはヴィムのような男が必要だ。
ヴィムなら、腐敗した世界を浄化できるかもしれない。
「皇帝陛下、ご報告がございます」
「なんだ?」
宰相が謁見をしていた。
「レオリア王国への民の移住が止まりません! これでは、徴税も満足にできません!」
ヴィムの噂は帝国内でも広がりつつあった。
レオリアは実力主義国家で誰にでもチャンスを恵んでくれる国だとも帝国内では有名になって行った。
その為、サイラス帝国の高い税から逃れるために、隣国であるレオリアに出るわけである。
レオリア王国は他の国から流れてくる人も寛容に受け入れてくれる。
「ヴィム・アーベルのせいか?」
「おそらく」
ヴィムの活躍は当然、皇帝の耳にも入っている。
「この前送ったうちの刺客はどうした?」
「それが、執事の爺さんにボコボコにされたとかで、治療中です」
「なんでたかが執事にそんなことができるんだよ! あいつは戦闘のプロだぞ!」
以前、ジェームズが追い払ったと言っていた人間はやはりサイラス帝国の手の者だったと言うわけである。
「その執事も戦闘のプロだったとしか言いようがありません」
「そんなバカな……意味がわからん」
皇帝は頭を抱えた。
ヴィムがいなくなってから、魔術学院の入学者数は減る一方で増える見込みはこれからも無いだろう。
「やはり、消すしかないな。これは帝国に反逆する行為だ。ヴィム・アーベルに国家反逆罪の罪をかける」
「よろしいんですか? レオリアとの国際問題になりかねませんよ」
「構わん。レオリアには大きな貸しがある」
「なるほど。あれを使うんですね」
皇帝と宰相は不敵な笑みを浮かべた。
♢
「公爵様、よろしいでしょうか?」
「なんだね?」
侯爵家ではヴィムをバックアップする準備が水面下で行われていた。
「皇帝が動き出しました。ヴィム様に国家反逆罪の罪を被せるとか」
「また、バカなことを。そんなことをしたら国際問題になるだろう」
ヴィムはレオリア王国に居るため、帝国の法律は適用されない。
それを無理矢理でも行使しようとしたら向こうの国王も黙ってはいないだろう。
レオリアの国王は善人で民からの信頼も厚く、明君だと聞く。
そんな相手を敵に回したらどうなるかなど目に見えて分かるはずである。
「これは、私たちも早めに動き始めた方が良さそうだな」
「そう思います」
公爵は何とか、皇帝より先に動こうとしていた。
しかし、公爵にも公爵という立場がある。
下手に動けば物理的に首が飛んでしまうことだって、あの皇帝ならあり得る話だ。
公爵は慎重に事を進めるのであった。
腐敗した帝国を建て直す為にはヴィムという男が必要だ。
内部には誰も触れられない汚点をヴィムなら暴くことができる。
巨大な帝国という国家を浄化する為にはヴィムのような人間を失う訳にいかないのだ。
だから公爵はヴィムの立場を陰ながら守って来たのだ。
「きっとヴィムのことだからあっちでも暴れてるんだろうな」
「おそらく、そうですね」
彼は誰かのために立ち上がれる男だということは周知の事実であった。
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