第22話 奴隷商

 翌朝、ヴィムはいつもより少し早い時間に目を覚ました。


「おはようございます。旦那様」


 ヴィムが朝食を取り終わる頃、ジェームズがやってきた。


「おはよう」

「こちら、昨日仰っていた奴隷商の詳細です。私の名前を出せばよくしてくれると思います」


 ジェームズは燕尾服の内ポケットの中から四つ折りにされた紙を一枚取り出して、ヴィムに渡した。


「助かるよ。早速行ってみるね」


 その紙を受け取ると、広げて中身に目を通す。

そこには丁寧に地図まで書かれていた。


「ご同行しましょうか?」

「いや、一人で行くよ。早くこの国にも慣れたいし」


 一国も早く国に慣れるためにも、毎度毎度ジェームズを頼るわけにもいかないだろう。


「かしこまりました。お気をつけて」

「うん、ありがとう」


 ヴィムは屋敷を出ると、ジェームズからもらった地図を頼りに奴隷商へと向かった。


「多分、この辺りだな」


 ここは王都の中央通りから一本外れたところだった。

中央通りは人で溢れているが、一本外れただけで人通りは激減する。

随分と静かなもんだ。


「ここか」


 ヴィムは奴隷商の看板がかかった建物を見つけた。

王都の中では立派な建物に入ることだろう。


 奴隷商というのは儲かっているのだろうか。

そんなことを思いながら、ヴィムは建物の中に入った。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」


 小綺麗な服装に身を包んだ男性が出迎えてくれた。


「ジェームズの紹介で来た。奴隷を買わせてもらいたい」

「失礼いたしました。ジェームズ様のご紹介ですね。あちらのソファーでしばらくお待ちいただけますか?」


 そう促され、ヴィムはソファーに腰を下ろした。

そして数分後、小太りで胡散臭い服装をした男が奥から出て来た。


「お待たせ致しました。私、ここのオーナーをしてますガルヴィンと申します」

「ヴィム・アーベルです」


 ガルヴィンと軽く握手を交わす。


「本日は、ジェームズの紹介で奴隷を購入したいとか」

「はい、そのつもりです」

「奴隷の購入は初めてでいらっしゃいますか?」

「ええ、初めてですね」

「では、最初に軽くご説明させていただきますね」


 ガルヴィンはヴィムの対面のソファーに腰を下ろした。


「まず、お客様のご要望をお伺いします。例えば、見た目、年齢、種族、性別、目的といったところですかね」


 一つずつ説明を始めてくれた。


「それをお伺いした上で私の方からお客様のご要望に沿った奴隷を提案させていただきます」


 奥に部屋があるらしく、そこで実際に奴隷の様子を確認できるとか。

そして、気に入った奴隷が居たら契約を結ぶという流れらしい。


「ご要望はどういったものがございますか?」


 ガルヴィンが尋ねてきた。


「見た目はいい方がいい。種族はそうだなぁ、人間じゃない方が面白そうだ。性別は女性、年齢は20代、目的は冒険のお供だ」

「かしこまりました。ヴィム様のご要望に沿った者をご提案させていただきます」


 ヴィムの条件をメモし終わったガルヴィンは顔を上げてそう言った。


「では、ご案内しますのでこちらへどうぞ」

「分かった」


 ヴィムはソファーから立ち上がると、ガルヴィンの後についていくような形で歩いた。


「ヴィム様のご要望ですと、戦闘力に優れた獣人族がよろしいかと思います。こちらが、獣人の部屋です」

「なるほど……」


 ヴィムは部屋の中に入ると一通り眺めた。

そこには、綺麗な服を着て椅子に座っている獣人の女性が何人か居た。

女性たちはヴィムの姿を見ると微笑みを浮かべて着た。


 その様子を見ていると彼女たちが奴隷であるということを忘れそうになってしまう。


「うーん」


 確かに、獣人族は戦闘能力に優れている。

ヴィムが魔法攻撃に特化しているため、物理攻撃や体術での戦闘ができる人材は少なからず必要だ。


 ヴィムも体術はそれなりにできるが、魔法メインの戦闘になるのだ。


「他には居ないんですか?」


 なぜかピンと来るような子は存在しなかった。


「ここにお気に召す者が居ないとなると、さらに奥の部屋になりますが、あまりお勧めはできないと言いますか」


 ガルヴィンは少し言い淀んだ。


「それでも構わない。見せてもらえないだろうか?」

「かしこまりました。ヴィム様のご要望とあれば問題ありません」


 ヴィムはガルヴィンの後について行き、1番奥の部屋へと足を踏み入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る