第11話 手を離さない

最近は

メールもないし

こちらを見ることはない

あの日

真緒を抱き締めた感覚も

薄れてきて

夢でも見ていたのかな?

なんて、思う日もある


「壮くん」


声をかけられ

振り向くと


「一緒に帰ろ」


誘われた

断る理由なんてないし

頷く


「良かった

夏祭りから

全然、話してくれないから

嫌われちゃったのかな?って心配してたんだ」


話してなかったっけ?

それも分からないくらい

意識していなかった


「嫌う理由なくねー?」


南は顔を赤くして


「いや、重かったかなって」


「ぜんぜん」


「本当に?」


「重かったら

投げてるし」


「こわっ」


二人で笑いあった

南…俺なんかのどこが良いんだろう?

笑顔、可愛いな


「腹へった

たい焼き食う?」


俺が誘うと

南は顔一杯に笑顔になって


「うん

じゃ、この前のラムネのお返しに

私がおごる!」


そう言って

俺たちは

駅前のたい焼き屋に入った


注文して

イートインスペースを見ると

刀川と真緒がいた


「南、テイクアウトにしよう」


そう言うと

南は不思議な顔で俺を見て

次に真緒を見つける


「あっ真緒~」


手をふる

真緒も南に手をふるけど

俺の方には視線を合わせない


「デート?」


刀川、なんでそんなに嬉しそうなんだよ

南はにっこり笑って


「私が誘ったの

一緒に帰ろって」


「へ~そうなんだ

良かったね

南さん

OKしてくれたんだ」


何度も頷きながら

納得する刀川


「一緒に座ったら?」


刀川は、同じ席に座れという

真緒は呟くような小さな声で


「邪魔しちゃ悪いでしょ」


そう言って

刀川をにらむ


何だよ

焼きもちか?

それはお門違いだろ?


そんな不満を抱きながらも

俺は冷静を装って


「南、公園で食いたい

外、気持ち良さそうだし」


そう言うと

店員さんに袋を二つもらって

南の手を引いて外に出た


ガラス越しに

真緒が見ているのは分かっていた

俺が南の手を握って

強引に連れていったからだろ?


別にいいよ

怒っても


俺だって

いつも怒ってるんだ

お前が刀川の側にいるのを見せつけられて


少しくらい

お前にも俺の気持ちを分かって欲しいから


今は、南の手を離さないよ



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