第2話 犬

高校は別に合わせたわけではない

だけど

最終的に迷ったあげく

真緒と同じ高校を選んだ


先生からは


「もう一個上の学校

狙えるぞ」


と言われたけど


「ギリギリ落ちたらへこむから…」


なんて言って

本当は、真緒の志望校を偶然

知ってしまった俺は

何か"期待"のようなドキドキを抱き

ひとつ下げたんだ


合格発表当日

真緒がいた


俺はかけより


「どうだった?」


久々に声をかけたから

真緒は一瞬、驚き


「あっ、ああ、うん、合格できた」


そう言って笑った

俺は自分の合格よりも嬉しくて


「良かったな~」


声を裏声して言うと


「なんで壮が喜んでるのよ!

親か?

もしかして

私が落ちるって思ってた?」


少し頬を膨らす


そんなことではない

これから始まる

三年間

小・中よりも

少し大人に近づく高校で

お前と一緒に居れる事が嬉しかったんだ


「そりゃ

心配するよ!

幼馴染みだし

おまえ、昔からいざという時に

走れなくなるタイプだから」


そう言うと

真緒は懐かしい笑顔で


「あ~犬ね」


「そう、犬」


俺たちは

あの頃を思い出した


【小学四年生(冬)】

俺たちは

寒くても外遊び

手がかじかんでいたけど

サッカーは走り回るから

体は熱かった


五時のチャイムには暗くなり始める


「じゃあな!」


皆とは

二つ前の角で別れ


最後に残るのは

俺と真緒だった


「あそこ…何かいる」


俺たちの家の前に

何か影が見えた


二人で目を凝らす


"ぐ~ぐ~"


と音がしている


よく見ると

こちらに狙いをさだめた…


犬だ!


見たことがない犬だった

怖かったからかな?

俺たちよりも大きく見えた


犬が闘争心むき出しでこちらに来るから

俺と真緒は

全力で逃げる


俺と真緒は

足の早さなら学年

一位と二位だったから

自信はあった


犬はすっと追いかけてきて

俺たちのスタミナ切れが目の前まで来ていた


"このままじゃダメだ"


そう思ったとき

真緒は犬に石を投げて

立ち止まった


「壮、壁の向こうに行け」


「真緒は?」


「私はいい」


度胸が座ってると思った


"こいつ、俺を逃がして

犬と戦う気か?"


よく見ると

真緒は足がガタガタ震えていた


体力の限界か?

恐ろしくて動けなくなったのか?

どちらにしても

真緒はもう走れなくなってしまっていた


「こっち来い!真緒」


「無理

のぼれそうにない

壮は逃げろ!」


「俺が引っ張るから!来いって!」


そんなやり取りをしていたら

犬は猛烈に怒り狂って真緒に飛びかかった


真緒はその場にすわりこんだ


俺は、そこからは

無我夢中で覚えていない


次に覚えているのは


真緒と俺は病院に運ばれて

犬の飼い主が謝りに来たこと

山ほどお菓子をくれたこと


真緒のお母さんとお父さんが


「壮くん

ありがとう

真緒が擦り傷だけですんだのは

壮くんのおかげよ

有り難う」


と、何度も感謝されたことだった


真緒はその日

簡単な処置で家に帰った


俺は数十針太ももを縫って

翌日、退院した


あの日の傷は

まだ残っている




俺たち二人は

同じ日の

同じ犬の顔が頭に浮かび

顔を見合わせ笑った


真緒もあの日の事を

まだ、覚えていたんだ


「気を付けろよ

身の程知らず」


そう言って

俺は先に家に帰った

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