第24話 「ばか」

とても綺麗なものが置いてある。誰も手を付けていない。あなたは触りますか。触らないでいられますか。誰かに見せようとしますか。どれが正しいということもないけどどれも正しくないこともない。こういう曖昧さがとしを重ねるごとにはっきり見えてきた。すぐに答えられなくてもいいけど答えないとだめなことなら山ほどあって今日も私に正解を出させる。選ぶのは苦手だ。どれでもいいよと言って、適当を重ねてしまえばすぐ終わるけどがっかりされるはずだ。起立、礼、着席は皆全然言わないのに誰か一人だとか友達だったら「おはよう」ってすんなり言えてるのに。張り合いがないんかな。先回りして転んで慌てて膝を洗った。君だけが笑わずに一部始終を見ている。そんな気がする毎日だ。真剣に見なくてもいなくなったりしないよそんなすぐには。ここはいいところな方だから。君がいてくれるおかげで。ハイタッチし合うようなライバルですらないけど。輝いてる君を見てるとやる気がでるよ。お陰様で遠くへ行けそうだよ。君が望んでいないにしても。好きになったら逃げていないと落ち着かないのさ。壊してしまうのが怖いから壊す前に都合のいい関係に戻す。都合がいいくらいが丁度いい。お互いが重荷になってしまったらほんとのお別れが来ちゃうから引き延ばしてる一人で。今日も下手くそなお芝居。上映時間だんだん短くなって人も減ったかな。芝居が演技に演技が普通の私になって仮面ができてたからとってしまおう、いらないね。演技だけ上手くなったって何一つ上手くいかないんだ。誉められても誰も私を見てない。私越しに他の誰かを見ているだけ。一方通行だった。出過ぎた杭は打たれまくって呪われてる。踏まれた土が巻き込まれ杭は身を縮こまらせて申し訳なさそうにしていた。心無いひとなんていないはずなのに。心無い言葉は存在してしまってる。銀色だった杭はもう錆びているよ。グランドにぽつんと取り残された1本の釘。傷を舐め合うようなことしかできないならやめよう。踏み固められたトラックの上を走る人が一番つらいはずなんだよな。荒い呼吸をしてるのに足はストライドを綺麗に。陸に上がった魚はもっと苦しむ。違いすぎて馴染めないと。何も言わずに食べられた。目立たなくて打たれることもなかった杭も、踏まれなかった土もいらないところはなかったらしい。今日も道端の雑草の相手をしてる。なんでそんなに謙遜するのか聞かれたって私だって知ら。癖になってた。「ばか」って言ったら私も君に「ばか」って言おう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る