第16話 残りもの 2

小学生の時だいたいの子どもは給食当番に任命されていると思う。私も白い帽子と白い上着を着て配膳したものだ。それまであまり暖かいご飯に触らせてもらえなかった子どもには嬉しい活動だった。給食のエプロンを洗濯するのは面倒だったろうな。真っ白いから汚れが目立つのだ。連帯責任という言葉を知らない小学一年生でも連帯責任を感じ取った。他の子も着るから汚せない。社会性は子どもの頃にどれくらい身に付くか決まってしまうのでは。あんなに弁当を残すのは感心しないですね。私はひどく冷めた目でゆづちゃんを見ていた。実際に名前を呼ぶことはないと思われるが苗字だと似た名前の人がいたら面倒だ。ゆづちゃんは私の冷ややかな視線など歯牙にもかけず仏頂面に戻っている。さっきまでの楽しそうな話し方は何だったの。騙されたんか。こんな人がさくらの人だったらやだ。ないとは思うけどやだ。髪の毛の長さは違うけど髪型なんてしょっちゅう変える人は変えるだろう。他の人もゆづちゃんには声をかけ辛いのか何も言っていない。これははみ出し者の佳乃に期待されているのでは。私が相槌打ったときは機嫌良さげだったし。急に気が変わるなんて空みたいだな。女心は秋の空。この子と仲良くなるのは思ったより骨が折れそうなのであきらめることにする。逆にそれは表面上仲良くするには何ら問題ないということである。

なんて声をかけようか。「えっとそれもったいないよ」そっけないかな。明るいトーンで喋れば問題ないけど外面がバレる。もう何でもいいや。嫌われない人なんていないし意気地なしだと思われるのは嫌だもん。肩を叩くのはまだ早いけど苗字すら知らない人になんて言おう。名前なんて呼ばなくてもいいと気づいた。人が気持ちいい食べっぷりを発揮してる横で残すなんて失礼すぎる。どうせ私は意地汚いコモドドラゴンみたいな外見の太ったトカゲだよ。細い人には一生私のことなんかわかるか。私はペアを組まされるとあまる残りものだから少し弁当の中身と重ねて見ていたところがあり気づいたら「ねぇ、それ私にちょうだい」と言っていた。あざといヒロインみたいで嫌だなと思ったのは授業が始まってからだった。もちろんクールな見た目の彼女が爽やかに笑いながらいいよなんて言うはずもなく。何だコイツと思われながら弁当の時間は終わりを迎えた。ちょっとくらい恵んでくれてもいいじゃんか。ケチ。コモドドラゴンが私の中でそう言っていた。 コモドドラゴンはコモドオオトカゲのことです。

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